自粛が尊すぎて三日寝てる。はぁ…マジ緊急事態宣言。



『HAMAMATU!!』『HAMAMATU!!』



 浜松コールが鳴り響く中、俺はグラサンをかけて制服をマントにして壇上に立つ。

 100均で買ってきたマイクを片手に「ヘイヘイ♪」と歌いながら踊っている。

 お腹を出して踊っている。

 女子からは白い目で見られているがもう慣れっこだ。



「お集まりの皆様……どうもありがとぉ。今日はお前らに俺の"夢"を発表したい。どうか聞いてくれえ」



『FUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』

『もちろんきくぜーーー!!』

『世界のHAMAMATU~~!!』



 歓声に頷きで返して、俺は叫ぶ。



「俺はなくしたいんだ!! この世の中から!! "いじめ"…… "人種差別" ……そして"貧困問題"……!! これらをなくしたいんだ!! なくしたいんだァ!!」



 俺は叫ぶ。このちっぽけな教室から世界に向けて。



「なくせるかなぁ!? 俺の力でこの世から…… "いじめ" ……"人種差別" ……そして"貧困問題"……。これらをなくせるかなぁ! なくせるかなぁ……っ!」



『大丈夫だー!!』

『なくせるなくせる!』

『HAMAMATUならできるさ!』

『泣かないで!』



「なくしたいんだよっ………!! なくしたい! この世から"いじめ" ……"人種差別" ……そして"貧困問題"を……っ! なくしたいっ……!!」



 俺は叫ぶ。



「なくしたいんだっ……!!」



 俺はうなだれる。

 みんなが心配そうに見ているフリをしている。


 立ち上がって再び叫ぶ。



「だから歌います」



『FUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』




「聴いてください。【ちっぽけな願い】」




 そのとき、一人のクラスメイトが俺を呼んでいた。



「おーい、浜松」


「なくしたい~♪ なくしたい~♪ いじめも差別もなくしたいっ~♪ なくしたい~貧困問題っ♪」


「お前に話があるって子が来てるんだけど」


「なくなったーなくなったー、いじめも差別もなくなった~♪ なくなった~貧困問題っ♪」


「来てるんだけど。女の子が」


「なく……え?」


 ×××


 この前、廊下で男子と喧嘩をしていた例の女子が教室の前まで来ていた。

 色白で小柄な彼女。

 グラサンを取って、小さく「チィッス……」と呟くとお辞儀を返された。


「はまっちゃん知り合い?」


 クラスメイトが肩に腕を回して尋ねてくる。


「あー……まぁ前前前世から」

「へえ、BUMPじゃん」

「え? いや、RADだよ。似てるけども! 確かに似てるけども! “カカオ”と“おかか”くらい似てるけども! “おざなり”と“なおざり”くらい似てるけども!!」


「この子、の彼女じゃね?


 誰かの一言でノリツッコミはかき消される。

 

 あぁ、あの人がショー先輩だったのか。


 ショー先輩。本名は島田しまだ 翔太郎しょうたろう。学年一のイケメンで若手俳優としても活躍しているこの学校のスターだ。さすがの俺でも知っている。

 ただあの人……黒い噂が絶えないんだよなぁ。


「あのひととはわかれました。さいてーやろうでした。もう顔もみたくないです」


 プイッと一言。


「だからあんなひとでびーびー泣いちゃった自分がはずかしくて、きょうはおれいを言いにきました」


 やっぱり後輩だったようだ。


「はまっちゃんこの子になにしたの?」


 クラスメイトの一人が尋ねてくる。

 ライブを途中で止めてしまったので、余計に人を集めてしまっていた。


「いやぁ、まぁ……」


 これは予想外の展開である。



「実はその……みんなには隠していたから、あんまり言いたくはないんだけど」



「なになに?」

「え、マジで?」

「まさかの展開!?」



 生唾を飲み込んでから答える。



「俺、趣味でヒーローやっててさ。だからこの子が道でカラスに襲われているの、ビーム打って追い払ったんだ……」



 いうと、目の前の女子が目をぱちくりさせた。

 他のやつらは苦笑している。



「カラスめちゃ強くてさ、思ったより強くてさ。本当は事務局から使うなって言われていたけど、ビーム使っちゃった。テヘペコリンヌ☆」



「なーんだそうだったのかー」

「趣味でヒーローねぇ」

「もうそれ本職にしろよ」

「カラスって頭いいから復讐されないように気を付けるんだぞ」



「うん。ヒーローすごい強いから負けない」



 グラサンをかけてグッと拳を固めると、後ろの男子数名が「ぷっ」と吹き出した。

 でも、目の前の彼女だけは笑わない。

 ずっとキョトンとしている。



「ま、まぁそんな感じだから! うん! 気にしないで! キミが元気になったのならよかったよ! じゃあ、お客さん待っているからっ。 ごめんね!!」



 肩に手を当てて「うんうん」と頷き、笑顔を浮かべて即座に踵を返した。

 そう、俺は単なる道化者ピエロ

 みんなから笑われてこそ存在価値がある。


 だからお礼なんて必要ない。

 こんなのは当たり前のことだから。


 もう俺に関わらないでくれ。

 君を傷つけたくないんだ。


 ※※※


 お昼休み。

 いつもの場所で縮こまっていると、誰かが階段を登ってくる音がした。


 先生かな?と思い、警戒していると


「あ」


 と甲高い声がした。



「ヒーローさんみーつけた」



 思わずメンチカツパンを吹き出しそうになった。

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