(27)謎の素性

「あ、あの……、それで、その良く分からない嫌がらせというのは、具体的にはどんな内容だったのでしょうか?」

「ああ、実は、今から半月ほど前の事なのだが……」

 一応話を聞いておこうと、アメリアは詳細について尋ねてみる。バルナーがそれに答えようとしたところで店のドアが開き、反射的にアメリア達もそちらに視線を向けた。


「やあ、こんにち……、げっ!」

「え? は? アルフェ……」

「あ、ルーファさん。いらっしゃいませ」

「…………」

 何気ない様子で店内に入って来たルーファと、アメリアとバルナーは、三者三様の台詞を口にしてから互いの顔を見合わせた。何故か男二人が微妙に困惑した顔で固まっているのを不思議に思ったアメリアは、小首を傾げながらバルナーに尋ねる。


「バルナーさん。もしかしてルーファさんとお知り合いですか?」

 その問いかけに、バルナーは取ってつけたような笑顔を浮かべながら、彼女に断りを入れた。


「あ、ああ、ルーファ、ね。うん、実はそうなんだ。知り合い過ぎる知り合いで。話の途中だけど、ちょっと外して良いかな?」

「あ、はい。どうぞ」

 そこでバルナーは素早く椅子から立ち上がり、ルーファを引きずるようにして店の隅に移動した。そして他の人間には聞こえないような小声で、顔を突き合わせて詰問する。


「おい、。お前、こんな所で何をやってるんだ。しかもお前、以前から知り合いみたいだし、とっくに彼女が魔力持ちだって知ってたんだよな?」

 その台詞に、ルーファは苦虫を噛みつぶしたような顔になりながら弁解した。


「確かに魔術師組合に報告は上げていませんでしたが、市井にいても問題になるほどの魔力持ちではないと判断できたからです。あなたこそ、どうしてここにいるんですか?」

「色々込み入った事情があるんだよ。あのジジイども、俺に面倒事を丸投げしやがって」

「長老方は相変わらずみたいですね……」

「というか、今日レストの奴はどうしたんだ?」

「色々ウザいので撒いて来ました」

「お前も相変わらずだな……。というか、お前、彼女に自分の事をなんて説明しているんだ? それによって、俺の対応も変わってくるだろうが」

「多少の魔力持ちの、魔術師組合関連の傭兵ですよ」

「お前な……」

 ざっくりしすぎた説明で片づけた弟弟子に、彼の素性を知る数少ない人間のバルナーは深い溜め息を吐いた。しかしここで呆けたままではいられないと、すぐに気持ちを切り替える。


「とにかく、彼女が少々面倒な事に巻き込まれているみたいだから、念のためお前にも説明しておく」

「面倒事とはどういう事ですか?」

「いいから、少し話に付き合え。どうせ今は暇だろう?」

 僅かに表情を険しくしたルーファを伴い、バルナーはアメリアの前に戻った。


「ええと……、アメリア? 待たせて悪かった。ルーファが魔術師としては働いていないが、魔術の心得がある魔力持ちって事は知っているかな?」

「はい。この前お伺いしました」

「俺達は同じ師についた、兄弟弟子の間柄なんだ」

 そう説明されたアメリアは、納得しながら頷いた。


「そうでしたか……。そうするとバルナーさんのお師匠様も、魔術師組合の組合長なんですね」

 そこでバルナーは、意外そうな顔をルーファに向けた。


「え? ルーファ。お前、そんな事まで喋ってたのか?」

「言ったのはエストですよ」

「なるほど……。実はそうなんだ」

「それで、彼は組合の中でも五本の指に入る実力者で、副組合長でもある」

「…………」

 さらりとルーファが補足説明した内容に、アメリアは反射的に口を閉ざして固まった。


(組合所属の魔術師ってだけでも厄介なのに、どうして副組合長なんて肩書を持ってる人が現れるのよっ!! 神様、あんまりじゃない!?)

 なんとか顔が引き攣るのを堪えつつアメリアが心の中で盛大に喚いていると、そんな彼女の様子を不審に思ったルーファが声をかける。 


「アメリア、変な顔をしてどうかしたのか?」

「誤解しないで貰いたいんだけど、俺は副組合長なんて肩書を持っていてもまだ三十手前だから。もの凄い年寄りのところを、魔術で若作りとかしていないからね?」

 大真面目にバルナーが訴えてきた内容を聞いて、そんな事は微塵も考えていなかったアメリアは激しく狼狽しながら手と首を振った。  


「いいいいえっ! 決してそんな大変失礼な事を考えていたわけではありませんのでっ!?」

「ぶふぁっ! わ、若作りっ……」

 しかし彼女の反応が図星を指されて焦ったように見えてしまったルーファは、堪えきれずに噴き出す。そのまま口元と腹を抑えて笑いを堪えていたルーファだったが、そんな彼を横目で見ながらバルナーが冷静に言葉を継いだ。


「それに、俺と兄弟弟子の関係だって聞いて、一緒にルーファの年も怪しんでいたんじゃないかな?」

「いえいえいえ、まさかそんな滅相もありません!! そんな邪推なんて微塵もしていませんでしたから!!」

「だそうだぞ。良かったな」

「……バルナーさん。話とやらを聞かせて貰いたいのですが?」

「そう怒るな」

 笑われた意趣返しとばかりに兄弟子にニヤリと嫌らしい笑みを向けられたルーファは、瞬時に笑いを抑えて憮然とした表情になる。そんな彼に促されたバルナーも笑いを収め、著しく脱線した話を元に戻した。






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