(10)真実が2つ?
エマリールがアメリアを連れて城内図書室の資料室に出向くと、そこの主であるユーシアと同席していた人物を認め、半ば呆れ、半ば怒りながら声をかけた。
「ユーシア、待たせたな。なんだルディウス。帰って来ていたのなら、さっさと顔を出さんか」
「申し訳ありません。ユーシアに今回の状況を報告してから、姉上にご挨拶するつもりでした。そうしたら間もなくアメリアが、こちらに来ると耳にしたもので」
「確かに、お前にはまだ紹介していなかったな。アメリア、これは私の弟のルディウスだ」
ここにくるまで、膨大な書物を目の当たりにして興味津々で周囲を眺めていたアメリアは、笑顔で焦げ茶色の髪を持つ青年に挨拶する。
「初めまして、ルディウス叔父様。アメリアです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、アメリア」
「それからこちらは、この城の図書室司書長のユーシアだ。密偵の取り纏め役も務めていて、人間の国側の情報を収集している」
母のその説明を聞いて、アメリアが首を傾げる。
「『みってい』? 情報を収集って、何?」
「それも含めて今日は顔合わせを兼ねて、ユーシアに軽く講義をしてもらう。ユーシア、頼んだぞ?」
「はい、お任せください。アメリア、図書室へようこそ」
「あ、は、はい! アメリアです! こんにちは!」
(うわぁ……、しわしわのおばあちゃんだ……。笑うと顔のしわの中に目が埋まっちゃうけど、見えてるのかな?)
挨拶の後、ルディウスと共に小さめの円卓を囲んでいる老婆をしげしげと眺めたアメリアは、密かに考え込んだ。するとここでユーシアが、おかしそうに笑いながら声をかけてくる。
「しわの中に目が埋まっても、見える物も見えない物も見失うことはございませんよ?」
それを聞いたアメリアは、本気で驚いた。
「え!? おばあちゃん、アメリアの考えている事が分かるの!?」
「魔力を使えば可能でしょうが、使わなくとも分かりますよ。昔、エマリール様とルディウス様に、同様の事を言われた事がございますからね」
「そうなんだ……」
「……ユーシア」
「そんな子どもの頃の事は忘れてください……」
大人二人はなんともばつの悪い表情になったが、ユーシアが笑いを堪える表情で促してくる。
「それではエマリール様、お引き取りになって構いませんよ?」
「分かった。時間になったらアメリアを迎えに来る。ルディウス、一緒に父上の所に行くか?」
「私はもう少しユーシアとアメリアと話したい事がありますので、後から伺います。父上にはそのようにお伝えください」
「そうか。それでは後でな」
そうしてエマリールが颯爽と部屋を出て行くと、ルディウスがしみじみとした口調でアメリアに語りかける。
「懐かしいな、この空気。ユーシアは長老達の中でも別格だから、知識が豊富でね。私達のような王族は殆ど、子供の頃にユーシアから講義を受けるんだよ」
「そうなの? じゃあ王様も?」
「そうだね」
「うわぁ……、おばあちゃん、凄いね」
目を丸くして率直な感想を述べたアメリアに、ユーシアが笑みを浮かべながら申し出る。
「私の事は、ユーシアと呼んでいただいて構いませんよ? おばあちゃんと呼ばれると凄く年を取ってしまった気がして嫌ですから、皆には名前で呼んでもらっています」
それにアメリアは素直に頷いた。
「分かった。ところで、ユーシアは何歳なの?」
「そうですね……、確か今年で758歳になりますかね?」
「…………」
(気のせいじゃなくて、本当にすごくお年寄りだと思うんだけど……)
思わず無言で考え込んでしまったアメリアだったが、ルディウスが真顔で小さく首を振っているのを見て、余計な事は口にしなかった。するとユーシアは、笑顔のまま本題に入る。
「さて、それでは竜と人間の関係について話すことにしましょうか。アメリアは今現在、竜と人間の生活する場所が分かれている理由を知っていますか?」
その問いかけに、アメリアは真顔で頷く。
「絵本で読んだ。最初竜と人間は一緒に暮らしていたけど、人間が竜から魔力を奪おうとしたから神様が怒って、神様が大陸を半分に分けて南半分に人間を押し込めたんだよね?」
「アメリアが読んだのは、エマリール様が街で購入した物でしょう。それは竜の国で作られた絵本なので、内容的にはある意味正しいでしょう。しかし、人間側の認識は違うのです」
「え? どういうこと?」
「大陸断絶の経緯について人間側の国で作られた本では、竜がその強大な魔力で人間を支配して悪逆非道な治世を行なったため、それに激怒した神が大陸を分断し、不毛の地である北半分に竜を封印したということになっています」
「えぇぇぇ!? どうして同じ事を書いているのに、そんなに内容が違うの? 本当の事は一つなのに、おかしいよ!! それに、竜の皆は優しい人ばかりだよ!?」
半ば憤慨しながらテーブルから身を乗り出しつつアメリアが訴えると、ルディウスは苦笑しながら小さい生徒を宥めた。
「アメリア。竜を庇ってくれるのは嬉しいけど、おとなしく聞こうね? 自分にとっての真実は一つしかないのは確かだけど、周りの人全員が同じ意見とは限らないんだよ? これからそれを含めて、ユーシアが説明してくれるから」
「うぅ……、分かりました」
アメリアが不承不承椅子に座り直すと、ユーシアは再び口を開いた。
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