ソル・セル ~若き魔法使いと生命の魔法~
@akiduki00
精霊の地
遠い昔、かつて「精霊の地」と呼ばれていた場所があった。
豊かな自然に宿る生命―精霊。その姿は光の粒子の様であり、五つの属性を有していたという。土の精は肥沃な大地に、水の精は清らかな川の流れに、風の精は季節を運ぶそよ風に、火の精は熱き溶岩に、そして、雷の精は暗雲と共に恵みの雨を降らせ、たくさんの命を育んでいた。
しかし、彼らの時代は突然終わりを迎える。
海を越え、陸を超え、多くの人間たちがこの地にやってきた。彼らは、精霊たちの大いなる力を手に入れるため、長きに渡る争いを始めたのだ。人間たちは精霊を捕らえ、彼らの命の源である魔力を戦に利用した。精霊たちは道具として使い潰され、あるいは住処を追われ、瞬く間にその数を減らしていった。人々は殺し合い、奪い合い、憎しみの連鎖が生まれる。美しかった「精霊の地」は、流された血と戦火で穢され、屍を食らうカラスが群れを成す、この世の地獄となり果てた。
それから更に時は流れ、既に人々がなぜ争っているのかも忘れてしまった頃、一人の男が現れる。彼は怨嗟渦巻く地獄の中で、逃げ延びた最後の精霊たちを探しにきたという。男は道中で得た四人の仲間と共に戦場を抜け、北の大山脈を目指す。そして辿り着いたのは、人が踏み込んだことのない、氷によって閉ざされた世界。そこで、生き残った五体の精霊たちが、彼らの前に姿を現した。男は、懇願するように精霊たちに告げた。
「私たちは、あなたたちを救うためにここに来た。大いなる五つの力を持つ精霊たちよ、私たちと共に、この長きに渡る戦を鎮めましょう」
男の声に、精霊は応える。
「決断の時はすでに過ぎ去った。人々が我らと共に歩むことは能わず。されど、汝らに大いなる五つの力を授けよう。ひとえに、この地と、この地に生きる数多の生命の平穏を願うゆえに」
そう最後の願いを託し、精霊たちは遠い空の果てに消えていった。男と仲間たちはそれぞれ、火・水・土・風、そして雷の魔力を精霊から授かった。委ねられた力を以て、彼らは長きに亘る戦を鎮め、精霊の願いを果たそうと立ち上がる。
男は、傷つけ合い、憎しみ合い、悲しみに捕らわれた多くの人々を前に、宣言する。
「我らは精霊より大いなる力を授かりし者。五つの魔力を用いて、この地に命の魔法を施そう。穢れを払い、今再び、この地に楽土を築こう」
男が天に向かって両手を突き上げると、暗雲が立ち込め、幾筋もの雷が走り、どこからともなく嵐を呼んだ。降り出した雨粒は豪雨に、吹き出した風は突風となって、この地の穢れを拭い去る。瞬く間に荒れ果てた大地には緑が芽吹き、血で染められた川が澄み渡っていく。長らく死臭を運んだ風は新しき季節を運び、戦火の炎は温かな灯となった。
最後に男がもう一度手を掲げると、鈍色の空が晴れ渡っていく。降り注ぐ眩い日を浴びて、男が名乗りを上げる。
「我が名はガルディウス。雷の魔法に導かれし者。ここに国を興さん。精霊より賜りし五つの力をこの国に留めん。我が民は、この大いなる力を受け継ぐであろう」
かつて精霊の地と呼ばれたこの地に、新たな国が生まれた。精霊から授かった大いなる力を受け継いだ者たちの国。これが、ガルディア王国の始まりである。
そして後の世で、この物語と共に一つの詩が語り継がれることになる。
『大いなる五つの力、我らの命の源なり
豊かなる大地
移ろう季節の風
母なる恵みの水
育みと破壊の火
暗雲を裂く眩い雷
五つの力を授かりし者
これを用いて国を作らん
土の祖 肥沃な大地と堅牢な城壁を為す
風の祖 幾百万の敵を薙ぎ払い、戦の先駆けとならん
水の祖 傷を癒し、国土に緑の恵みをもたらさん
火の祖 時に我らの栄光、時に我らの破滅とならん
雷の祖 大いなる四つの力を従え、この世を統べる理の鍵とならん
五つの力、国を守る術としてあり続けん
命の魔法、理を壊さぬものとしてあり続けん
このことを始まりの碑に示すは、人の業の深さを知る故なり』
『ガルディア王国建国記』より
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