39.依頼を探しに
「あ、エヴァンさんお久しぶり~」
エヴァンたちが【アズラスタン冒険者ギルド本部】に入るとテーブルを拭いていたニーナが笑いかけてきた。
「あれから見かけなかったから結局悪魔に憑りつかれて死んじゃったんじゃないかと心配してたよ~でも元気そうで良かった」
「まあね。良い物件を紹介してもらって感謝してるよ。ドミンゴさんにもよろしく言っておいてくれないか」
「オーケー、ってそれよりもさあ、ひょっとしてそちらの2人も一緒に住んでるとか?」
ニーナはエヴァンの後ろにいるメフィストとサリアを見て好奇心に目を輝かせている。
「まあそういうことになるかな」
「エヴァンさんやるう~。おじさんなのにこんな美女2人を侍らしてるなんて凄いじゃん!ひょっとして見かけによらずあっちの方が凄いとか?」
「違います!」
サリアが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「うーん、まあまあかな?」
メフィストが呟く。
「なになに?もっと詳しく聞かせてよ」
「それよりもだ、今日はギルドに用があってきたんだよ」
全身から興味をみなぎらせて近寄るニーナを押しよけながらエヴァンは窓口に向かった。
「なにか依頼はないか?できれば手っ取り早く稼げる魔物討伐が良いな」
「ちょっと待ってて」
ニーナはそういうとカウンターの奥に入っていった。
「私はウェイトレスと窓口兼任してるんだよね。エヴァンさんは小鶏級だったっけ」
そう言いながら依頼書の束を取り出す。
「小鶏級?本当ですか?」
ニーナの言葉にサリアが目を丸くした。
「まあちょいと事情があってな。ところでサリアのランクはいくつなんだ?」
「ふふん、私は猟犬級です」
そう言って胸を張るサリア。
「2つしか違わないじゃないか。そういえばメフィストはまだ冒険者の登録をしてなかったな。悪いけどそっちも頼めるかな?」
「オーケー。えーと、小鶏級だったらこれなんかどう?近くの村がスライム被害に遭ってるって」
「却下だ。もうちょっと稼げるのにしてくれ」
「じゃあこれは?グレーターウルフ討伐。でも中位冒険者でも銀狼級以上推奨だよ?」
エヴァンはニーナから依頼書を受け取ると目を通した。
「なになに、北の街道に出没するグレーウルフの討伐。頭数は問わず1体あたり小金貨1枚か。まあ妥当なところだな。じゃあこいつで登録を頼むよ」
「オーケー、じゃあ冒険者はエヴァンさん、メフィストさん、サリアさんの3名ね。パーティー名は決まってる?」
「うーん、エヴァンと『ゆかいな仲間たち』でどうだ?」
「なに言ってんの。そんなのにするくらいなら『絶世の美女メフィストとその他』の方がいいじゃん」
「ふざけないでください。ここは『敬虔たる神の僕』でしょう」
「…面倒だから今月からとって『5月団』にするね」
ニーナはそういうと革ひもの付いた金属のプレートを取り出した。
呪文を唱えながらペンで金属プレートに5月団と記入すると文字が淡い光を放ちながらプレートに焼き付かれていく。
そのプレートの上に依頼書を置き、更に呪文を唱えると依頼書に5月団の名前が浮かび上がってきた。
「はいこれでよし。これで5月団はこの依頼を受諾したことになるよ。あとこれはメフィストさんの登録証」
そう言って麦の意匠が描かれた冒険者の登録証を出す。
「へえ~、これであたしも冒険者なんだ」
メフィストは嬉しそうにそれを左胸につけた。
「でも気をつけてよ。グレーターウルフは冒険者の間でも結構被害が出てるんだから」
「わかってるって。じゃあちょっと行ってくるよ」
エヴァンは心配そうな顔のニーナに笑いかけるとギルドを後にした。
◆
「グ、グレーターウルフ討伐?」
準備のために屋敷に戻ると本を読んでいたフォラスが興味深そうに顔を上げてきた。
「ああ、フォラスの読んだ本に効率よく狩る方法とか載ってなかったか?」
「そ、そういうのはない…でもグレーターウルフは狡猾で凶暴だって書いてあった」
フォラスはそう言うと一冊の本を取り出した。
「主に夜行性で10頭から20頭の群れを形成する。特に人の肉を好むため辺境の村が襲われて全滅することもある、だって」
「だ、大丈夫なんですか?そんな魔獣を相手にたった3人で?」
サリアが顔を青くしながらエヴァンのシャツの裾を掴んできた。
「大丈夫だって。サリアも修行の成果を確かめたいんだろ?この位の相手じゃなきゃ張り合いも出ないってもんだぞ」
「そ、そんなこと言っても…」
「いいからいいから。ほらメフィスト、お前も来るんだよ」
「ええ~面倒くさいんだけど。2人で行ってきなよ。あたしは留守番で良いからさあ」
「んな訳あるか。留守番は1人で充分だ」
エヴァンはサリアとメフィストを強引に立たせると玄関へと向かっていく。
「じゃあフォラス、ルスは任せたぞ」
「わ、わかった」
フォラスが手を振って送り出す中、3人は屋敷を出て行った。
「ひ、久しぶりの1人だ。ふへ、ふへへへへ」
1人きりなったフォラスはソファに寝転がると足をバタバタさせながら本を手にした。
「こ、これでゆっくり本を読めるよ」
1人呟きながらページをめくる。
フォラスの至福の時間が始まるのだ。
「あれ、まだ1時間?」
フォラスは時計を見て驚きの声を上げた。
夢中で本を読んでいたら気が付けば日にちが変わっていた、なんてことも普通だったのに、こんなことは初めてだった。
最近は気付けば誰かの姿が目の端にあり、誰かの言葉が耳に入っていた。
そのせいなのか今日はやけに屋敷の静けさが気になる。
「い、いつ帰ってくるのかな…」
知らず知らずのうちにフォラスはそう呟いていた。
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