23.独角党
「ほ…本当にトロルが死んでいる…」
ドルゴたち冒険者一行は空き地に転がるトロルの骸を見て呆然とした。
この目で見ても未だ信じられなかった。
「俺、トロルなんて生まれて初めて見たぞ…」
1人の呟きに全員が頷く。
「悪いけど魔核は取らせてもらったよ。オークの方はそっちの好きにしてもらって構わないからさ」
「と、とんでもねえ!」
ドルゴが慌てて首を振った。
「オークを倒したのはエヴァン、あんただ!それにあんたは俺たちの命の恩人だ!魔核だけいただくなんてそんな真似はできねえよ!」
ドルゴはそう言うと地面に両手をついた。
「この前はすまなかった!俺たち、いや俺はあんたのことを誤解していたみたいだ。この通り、許してくれ!」
ドルゴの謝罪に周りの冒険者たちも一斉に跪く。
「いや許すも許さないも別に気にしてないんだが…」
「それじゃあ俺の気が済まねえ。何でも言ってくれ」
「そうだな…じゃあ幾つか頼みを聞いてくれないか?」
エヴァンは地面に腰を下ろすと人差し指を立てた。
「まず1つは一時メンバーで構わないからこの討伐のメンバーに俺も加えておいてくれ」
「わかった。あんたの参加はリーダーである俺が保証しよう」
ドルゴが頷いた。
「助かるよ。大規模討伐の途中参加はリーダーの許可がないとギルドに認められないからな。これでランクアップできる」
「そ、そう言えばあんたのその強さはどうしたってんだ?以前この町にいた時は麦束級で全然ランクアップできなかったってのにまるで別人じゃないか」
「まあその話はいずれするよ。それよりももう1つのお願いだ」
エヴァンはそう言って指をもう1本立てた。
「この町の魔族に何があったのか教えてくれ。この町の裏社会と関係あるのか?」
ドルゴが驚いたようにエヴァンを見つめた。
「もうそこまで知ってるのか。あんた本当に何者なんだ?」
「知ってるというほどじゃないさ。むしろ知らないから知りたいんだよ」
「それもそうだな…じゃあ俺の知っていることを教えよう」
ドルゴが話し始めた。
「元々この町は魔族と仲が悪かったわけじゃないんだ。そりゃ過去もあるから肩を組みあってという訳にはいかないけど概ね上手くやってたんだ。それが崩れ始めたのが3年ほど前だ…」
ドルゴによるとその頃からとある犯罪組織が町で暗躍し始めたという。
そしてその頃に1つの噂が町で囁かれるようになっていった。
独角党のリーダーは魔族である、と。
「結局その噂に尾ひれがついてこの町の魔族はみんな独角党の一員だ、なんて言われるようになっちまった。それからは魔族と人間の諍いがあちこちで起こるようになって数少ない魔族はみんな引っ越していったって訳なんだ」
ドルゴはそう言うとため息をついた。
「結局それでも独角党の犯罪は止まらず、俺たちは自警団を結成したけどそれでも連中の正体は掴み切れないままで魔族に対する猜疑心だけが残っちまったんだ」
「なるほどな」
エヴァンは顎の無精髭をさすった。
「だからエヴァン、申し訳ないがあんたの質問には答えられねえんだ。力になれなくてすまねえ」
「いやいいさ。それはこっちで何とかするさ」
エヴァンはそう言うと立ち上がった。
「とりあえず帰らないか?もうすぐ日も暮れるしさ」
◆
「北の町にトロルが?本当に~?」
滅多なことでは驚かないギルドの受付嬢メリダも流石に驚きの声をあげた。
「ああ!本当だって!それをこのエヴァンが1人で倒しちまったんだ!」
ドルゴが興奮したようにまくしたてている。
「しかも俺たち20人でも歯が立たなかったオークの集団をたった1人で全滅させたんだ!とんでもねえ強さだぜ!これで下位冒険者だなんて信じられねえよ!」
「確かにこれはトロルの魔核よね~それにオークの魔核が5個…これをエヴァンさんが1人で?」
「本当だぜ!どうやったのかもわからねえ、気が付けばオークは全員死んでたんだ!」
「へえ~」
メリダがエヴァンをしげしげと眺めた。
「エヴァンさんってそんなに凄かったんだ~前は全然ぱっとしなかったのに~」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、って言うだろ」
エヴァンは得意そうに胸を張った。
「え~なにそれ知らな~い」
メリダはそう言うとエヴァンの手を取った。
「でもお~、私強い人って好きかも。特に強くてお金を一杯稼ぐ人~。エヴァンさん、このあと時間ある~?私もっとエヴァンさんのこと知りたいかも~」
「それはもちろん、でもその前にランクアップの認定をしてくれないか?さっさと植物から動物になりたいんでね」
エヴァンはメリダの手を握り返すとそこに冒険者の認定証を置いた。
先ほどまでエヴァンのシャツに縫い付けられていた樫級の認定証だ。
「オーケー、ドルゴさんの保証もあるからエヴァンさんは北の森の魔物討伐依頼の一時メンバーとして認められるね~。今回の討伐で中位冒険者の小鶏級にランクアップでーす。おめでと~う。パチパチパチ」
メリダが拍手と共に新たな認定証をカウンターに置いた。
青銅のプレートに小さな鶏の意匠が彫りこまれている。
「やっぱり中位でも最下級からか」
エヴァンは認定証を指で弄びながら小さくため息をついた。
「ごめんね~。ギルドの規約でランクを上がる時はジャンプアップできないのよ~」
両手を合わせながら軽い口調で謝るメリダ。
「謝るついでに言うとトロルの魔核の買取なんだけどお、こっちも待ってもらえるかなあ?ここのギルドの大スポンサーはバンガー町長なんだけど、お金はあの人が管理しててすぐには用意できないのよ」
「そりゃしょうがないか。いいよ、待つよ、待ちますとも」
エヴァンは肩をすくめてため息をついた。
「よし!話は終わったな!じゃあ今日の祝宴と行こうじゃねえか!」
そこにドルゴが荒っぽく肩を組んできた。
「今日は俺たちの奢りだ!じゃんじゃん頼んでくれ!」
「いやっほう!おっちゃん!エールを大ジョッキで!」
メフィストが歓喜の叫び声を上げた。
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