第5話 

 眠れぬセイヤ。ふっと部屋の様子の違和感を感じた。

テーブル、椅子、本棚などは揃っている。いや、綺麗に揃いすぎている。

気になってラブドールに近づく、少し動かされ微妙に違っていた。

セイヤはラブドールを体を探る。何も変わらないようだ。昨日のリエの事が頭をよぎり、陰部をさわりながら指を入れてみる。ゆっくりと何かを探すように。さらに奥の方までいれる。理恵は無表情だ。何かが指にあたった。ゆっくり、取り出す。


「あの子、今まで童貞だったわ」リエはオフィスのソファに座る。

「あんた事が忘れていなかったんだね」

雄二、書類を見ながら

「あいつらしいな。よほど俺の体が忘れられなかったんだな」

「何、それって自慢?」

「ああ、ちょっとした自慢」

「あの子を捨てて、私に走ったくせに何が自慢よ。それに彼に送ったラブドールに

私の名前えを付けるなんで」

「まあ、そんなに怒るなよ。あいつに渡しておけば、暫くは安全だ」

そこにリュカが入ってきた。

「リュカ、何かわかったの?」

「いや、さすがにあれ以上は分からない」

「ラブドールを回収するしかないか」

雄二が立ち上がり、リエの後ろから抱き着く。

「えー、私が行くの?いやよ」

「俺とリュカは会えないからね。あとはリエしかいないんだ」


セイヤが取り出したのは、小さなICチップ。「何故、こんなのがあるんだろ?」

その時、チャイムが鳴りだす。慌ててコインケースにICチップをいれる。

セイヤ、ドア越しに

「何のご用件しょうか?」

「警察だ。開けてください」

「え、警察?何も悪いことはしてませんよ」

「あなたじゃない。数日前ラブドールが届きましたよね」

セイヤ、逡巡するがドアを開ける。二人の刑事は手帳を見せる

「ラブドールがどうかしましたか?買ってはいけない理由がないですよね」

「ラブドールに大麻が入っている情報がありましてね。」

「大麻?」

「あなたの事はこちらで調べましたので。今日はラブドールを回収します」

刑事たちはビニールシートに包み、車の後部座席に乗せる

その様子を物陰で見ていたリエがいた。

「(スマホで)雄二、ラブドールが警察に回収されたわよ。どうするのよ」

「今、考えている。・・・とりあえず、リエは帰ってこい!」


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セイヤは一人で『グリーン』のバーカウンターでスコッチを飲んでいる。相変わらず外国人が多いがセイヤによって来る人がいない。ラブドールが来た時から、刑事が来るまでの事を考えていた。そこにリエがやってきて、隣に座る。

「元気ないじゃん、どうしたのセイヤちゃん」りえ、セイヤの頬をなでる。

「なんだ、リエか」スコッチをあおる。

「どう、大人になった気分は? あ、マスター、スコッチ2つ」

そこにセイヤの肩を叩く男がいる。

「ちょっと、外に出な!騒ぐなよ」

セイヤ、黙って立ち上がる。男も付いていく。リエも立ち上がろうとしたが男の相棒に座らせられる。



和光のオフィスがいきなり開かれ、数人の男達が雪崩れ込んでくる。不意を突かれた雄二とリュカ。抵抗するが多勢に無勢、男達は二人を縛りあける。

「おい、あれはどこだ?」

男はジャックナイフを取り出し、雄二の顔に近づける。

「あれってなんだよ。何言ってるんだ?」

「それじゃ、ラブドールと言えばいいか?」

「ラブドール?」

「ラブドールをあいつに送った」

「あいつ?」

「お前らはラブドールに隠してたな。ICチップ」

「・・・・・」

「でも、ラブドールに無かった。誰が持っている?」

「知らない・・・」

「やはり、あのホモ野郎か?」

「さあな。とにかく、俺らは何も知らないだ」

男はリュカにナイフを頬に当てる

「おい、フランス野郎、貴様はどうなんだ」

「俺も何も知らない」

「何も知らない?じゃ、しょうがねぇ。それなりの覚悟が出来ているんだな」

男は二人にナイフを目の前に見せるながら、スマホを取り出す。




セイヤを連れて誰もいない路地裏に連れて来る。奥の物陰から男が現れ近づく。

セイヤ、目を細めた。さらに近寄ってくる。

「あんた刑事じゃねえな」

「ほう、よく分かったな。だったら、渡してもらおう」

「何を渡せと?」

「しらばっくれるな!」男はセイヤを一発殴る「ラブドールには無かった。お前の友達が正直に話したよ」

「俺には友達はいない」

「それじゃ、雄二、そしてフランス人のリュカと言った方が分かるか」

「雄二先輩!、リュカ!」

「ほら、友達いるじゃないか。二人がどうなるかはお前次第では変わってくるな。それでは渡してもらう」

セイヤ、後ろポケットに手を入れようともう一人の男が腕をつかむ。

「いてて!小銭入れに入っているんだよ」もう一人の男が小銭入れを出し、男に渡す。男は小銭入れを中身を見て、ICチィップを取り出す。

「ようやく、見つかったな。そんじゃ、お前たちには用事が無くなった訳だ」

「なに?」

「俺は何も約束はしなかったぜ」

「くそ!」

突如、男の声が響く。「警察だ、そこで何してる!」

男達は咄嗟のごとに逃げていく。追いかける警察官。

そこにリエが近づいて「大丈夫?」

「ああ、君か警察呼んだのは?」

「ええ、でも警察じゃないの。あの店のボディガードに現金握らせ、警察のコスプレさせたの」

「助けてくれて、ありがとう」

「あなたに合わせたい人がいるの」

「もしかして、先輩の雄二さんとリュカか」

「なぜ、知っているの」

「さっきの男が言っていた」

「とにかく、移動しましょう」

二人は路地を走り出す。


和光ビルに入っていくセイヤとリエ。事務所のドアを開け、二人が縛られいるのを見る。セイヤとリエ、二人に近づく。

「おい、雄二先輩、リュカ。大丈夫か」セイヤは雄二を振り起す。リエはロープを解いている。

「ううん、ああ、セイヤか、久しぶりだな」

「久しぶりだなって、何しているんですか?それと、リュカが何故いるんだ?」

リュカも気づき出す。「セイヤ・・・」

「お前、フランスに行ってんじゃないのか、そして、何故、先輩と一緒なんだ?」

「いろいろ、あってな。雄二さんとは仕事先で知り合ったんだ」

「いったい誰のこんな事されたんですか?先輩」

「セイヤ、それより、ICチップ持ってないか?」

「どうして知っているんですか。持ってますが、何か関係あるんですか?」

雄二はICチップの説明をする。小笠原諸島沖合の海底に大量のレアメタルが発見され、極秘のプロジェクトが日本政府とある多数の企業が進められている。このプロジェクトに雄二とリュカが関わっている。

二人のロープが外され、立ち上がる。セイヤは財布からICチップを取り出す。

雄二の手の平に載せる。

「何故、ラブドールに入れていたんですか?」

「中国が狙って噂があってね。隠す場所を考えて、リュカの提案でラブドールにしたんだ」

突如、リエがICチップを取り出す。

「へえ、これが中国が狙っているだ」

「おい、リエ返せよ!日本の経済が変わるかもしれないだから」

リュカ、逃げ回るリエ。

「リエ、返してやれ。セイヤ、巻き込んでごめんな。」

リエ、リュカにICチップを返す。

「いえ、大丈夫です。あれから、どうしてたんですか」

「とある企業に就職をして、このプロジェクトに移動されたんだ」

「このICチップは機密情報を全部入ってるんですか?」

「いや、プロジェクトは幾つも部分かれていて、俺はあるプロジェクトに関わってる。全部の把握しているのは、日本政府だ。他のプロジェクト関しては良く分からない」

「だったら、日本政府の狙えばいいじゃないか!」

「日本もバカじゃないから、セキュリティは国家機密なっている。さすがに中国も手が出せない」

リエ、絆創膏を持って来て

「セイヤ、殴られた場所に絆創膏張ってあげる」

「ああ、悪いな」

「セイヤ、リエを覚えていないか?」

絆創膏を張り終わる。セイヤ、絆創膏をさすりながら、

「いや、知らないと思う」

「雄二、あの事を話すの?任せるけど」

「ああ、セイヤには知ってほしいんだ。なぜ、セイヤと別れたのか?」

「まさか、先輩とリエは・・・・・」

窓のガラスが会話をさえぎる様に割れる。その時、雄二の顔が苦痛のなり、

セイヤに倒れこむ。雄二の背中にボーガンの矢が突き刺さっている。

「先輩!」

「雄二、あとは頼む。リュカとリエを助けてやってくれ」

「先輩!」

「雄二、雄二」

「リュカ、矢に紙が縛ってある。取ってくれ。俺は矢を抜く」

リエが泣きながら「雄二・・・」セイヤ、矢を抜いて、ゆっくり床に寝かす。

「セイヤ。あの時は俺も楽しかったよ」

「先輩。僕も楽しかった。別れた時は辛かったけど」

「セイヤ・・・俺が悪かった・・・」雄二が静かに目を閉じる。

「先輩!」

「雄二!」リエが雄二の胸に泣きこむ。

それを見つめているセイヤ。セイヤの顔の前に紙を見せるリュカ。

「向こうから、提案が来たぜ。命が欲しいなら、俺はのるけどな」

セイヤ、紙を受け取り読む。

『明日。12時に夢の島。条件としてICチップの交換。

こっちは500万用意した。悪くない条件だと思う』

「リュカ、このプロジェクトは、どこまで出来ている?」

「詳しいことは分からないが、雄二の話だと、他のプロジェクトより

進んでいて、9割方出来てると言っていた。」

「リュカはこのプロジェクトに関わって居ないのか?」

「俺はまた違うプロジェクトだ。俺の方のプロジェクトの確認の為に関わって居た」

「しかし、殺しまでして、手にしたいプロジェクトなんだな?」

「中国も昔は世界一のレアメタル生産国だったが、今は底をつきかけているんだ。」

「中国の経済安定の為に先輩が死んだ」

「行くのか?」

「ああ、先輩の為にも行くよ」

「それじゃ、俺も行くよ」

「リエも行きます」

「よし、それじゃ、3人で行こう」



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夢の島。ゴミトラック車が数台通っている。風が強く、ゴミが回っている。

セイヤとリュカは待っている。そこに一台の黒い乗用車が走って来る。

セイヤとリュカが見つめている。黒い乗用車は数十メートル離れて止また。

セイヤの顔が険しい感じになる。助手席から男が出で来る。

「よく来たな。狙いが悪く先輩の背中に当たったらしいな」

「何言ってる、最初から狙っていたんだろう」

「それはそっちの想像だ。こっちは殺す理由はない」

「でも、先輩は死んでしまった。これは事実だ」

「御託はもういい。早速。取引をしよう」

男はトランクを持ちながら歩き出す。手には銃が握っている。

セイヤは緊張がしながら

「何故、銃を持っている?」

「ただの護身用だよ。別に危害を加えるつもりはない」

男は立ち止まる。三人の間には風でゴミが回っている。

「ICチップは持って来たんだろうな。この前はまんまと偽物を掴まされた」

「先輩が死んだ以上は、被害は出したくない。ICチップは財布に入っている」

「リュカ、財布を取れ!」

「リュカ!おまえ・・・・」

「悪かったな。俺は最初からスパイだ。財布をもらうよ」

「それだったら、昨日、交換できたはず。なぜ?」

「確かに出来た。でも、危ない事するより、ここで貰えるからな」

リュカは財布を抜き取り、ICチップを確認する。財布のコイン入れにポツンと

ICチップがあった。うなずくリュカ。

「これで本当にフランスに帰るよ。元気でな」リュカは歩き出す。

「リュカ・・・・」

「セイヤ君、君はよくやったよ。ここに約束の金がある」足元にトランクを置く。

「でも、君はあまりにも知りすぎた。悪いが死んでもらうよ」

銃をセイヤに向け、引き金を引く。音にビックリしてカラスが飛び出す。

セイヤ打たれて倒れる、ズルズルと滑落ちる

トランクを持って車に向かう男とリュカ。そして、二人が乗り込み走り出す。



一台の車来る。滑り込むようぬ車が止まる。降りて来るのはリエ。

「セイヤ!セイヤ!」

探し回るリエ。これまでの様子は双眼鏡で見ていた。ただし、会話までは聞こえていない。撃たれたセイヤに驚いて車を走り出した。

「セイヤ!確かこの辺だったはず。セイヤ!」

見渡すリエ。ふと下を見るとセイヤが倒れていた。

「セイヤ!」リエ滑るようにセイヤに近づく。

「セイヤ、死んでるの?セイヤ!死んじゃイヤー!。雄二も死んじゃうし。

私が童貞を奪った二人が死ぬなんで。イヤー!」

リエ、セイヤの胸に顔を埋めながら泣いている。

「・・・(弱弱しく)君だったのか・・・」

「そうなの・・・え!」リエ、ビックリして顔を上げる。

「・・・先輩を奪ったのはリエだったのか?」

「セイヤ!生きていたの」

「どうやら、風が強かったせいで狙いが外れたみたいだ。肩が撃たれたけれど」

「他は大丈夫・・・」

セイヤ立ちながら

「さっきの質問に答えいない」

「え、なに?何か言ったの?」



リエの車が高速を走っている。運転しているリエ。助手席のセイヤ。

「リエ、さっきの質問だけど・・・」セイヤの声を被さるように

「セイヤ、絆創膏剝がして。傷にあたる部分を剝がしてみて」

「絆創膏?」

「いいから早く剝がして!」

セイヤ、絆創膏を剝がし、少し血が滲んでる部分を剝がす。

剝がした部分にICチィップが張ってあった。



                                  完







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ワタシヲ捨てないで 桜庭 @sakuraba0807

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