いいちこはまだ飲めない


世間は父の日だったらしい。すっかり忘れていた。手ぐらいは合わせた方がいいかと母に訊いたら、思い出しただけマシだろうと笑われた。それもそうかな、もしかしたらそこら辺で、なんでや挨拶しろなんて怒っているかもしれないな。そんなことを言い合って笑った。

父の日がイベントだった記憶は無い。今日と同じように、そういやそんな日もあったなぁ、と話す程度で。小学校までは無神経に父について話しかけてくる阿呆がいたが、少なくとも父の日そのものに馴染みはなかった。

姉が結婚して子どもが生まれて、義兄が父になってから、やっとほんの少し話を聞くようになった。といっても今年は聞いていないが。しかし微笑ましい限りだ、まだ子どもたちとは不仲でないようだから。

もうそろそろ、遺影の顔すら曖昧だ。せめて存在だけは忘れぬよう、この場に書き留めておくとする。

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