第32話 魔族討伐作戦
「テオドール、何とかならないのか?」
場の空気を読めなかったのか、殿下が俺の名前を口に出した。注目が俺に集まる。ああもう……。
「やれるかも知れませんが……」
多分、エナジードレインを使えば何とかなる気がするんだけど、イマイチ確信がないんだよなぁ。あれって俺の魔力が満タンになったらどうなるんだろう? オーバーフローしたら爆発四散したりしないよね?
「ミケ、エナジードレインであの魔族を倒せると思う?」
ミケはさも当然とばかりに答えた。
「大丈夫よ、問題ないわ。あの魔族の魔力を全部吸い尽くしても、まだまだテオの魔力量の上限にはほど遠いわ」
οh……俺の魔力量って一体どうなってるの? 何だか聞くのが怖かったのでそれ以上はやめておいた。それよりも答えを示さなければ。
「殿下、大丈夫そうです。何とかなります」
おおお! とどよめきがあがった。できれば俺も驚くがわに混じりたかったな。そしたら魔族と対峙することもなかったのに。
俺の返事を聞いた殿下と、その隣に座る国王陛下は大きくうなずいた。
「頼んだぞ、テオドール。皆の者はテオドールの援護に努めよ」
ハッ! と力強い返事が返ってきたところでお開きとなった。作戦は簡単。ダンスホールでダンスパーティーを開催し、そこにイケメン魔族を呼び出す。そしてその場で罪を突きつけて始末する。
うまく行ったらそのまま一杯やるつもりなのだろう。良いのかな、そんな緩い感じで。
魔族討伐作戦は速やかに決行された。会場となるダンスホールには事情を知る貴族たちと、貴族にふんした騎士や魔導師たちが多数紛れ込んでいた。
社交界に力を入れている貴族ならば、その異様さにすぐに気がついたことだろう。何せ、見たこともない貴族が多数ダンスホール内にいるのだから。しかも、王城のダンスホールにだ。
だがしかし、イケメン魔族はそのことに気がついていないようである。もしかすると、国王陛下に近づけたと思って喜んでいるのかも知れない。
そしてそのイケメン魔族の隣には、俺の元婚約者のカロリーナ嬢が上機嫌で腕を組んで寄り添っていた。
どうやら本当にイケメンが好きなようである。中身を気にしたりとかはしないんだろうなぁ。見た目だけでなく、もっと中身を見ていたら、こんなことにはならなかったのだろうにな。ま、しょうがないね。俺には関係ないですからね。
ダンスパーティーは滞りなく進んで行く。その間に貴族たちはいつの間にか変装した兵士たちへとすり替わって行った。
そしてそのときがやってきた。周囲を取り囲まれたところで、さすがのイケメン魔族も気がついたようである。隣にいる婚約者と共に周囲を見渡している。
「お前の悪行もこれまでだ。お前にはこの国の穀倉を枯らし、国力を低下させようとした罪と、その際に隣国と共謀して戦争を仕掛けようとした証拠がある。おとなしく罪を償ってもらおう」
そう言うと、それらの証明となる書状を見せた。え? とつぶやくカロリーナ嬢の声が聞こえたが、魔族は何も言わなかった。もしかしたら、まだ自分の正体がバレていないと思っているのかも知れない。
すでにイグドラシルの腹の中にいると言うのに、気がついていないみたいだしな。案外鈍いのかも知れない。周りを囲んでいた兵士たちが次々と武器を構えた。
そしてようやく正体がバレていることに気がついたようである。
「ハッハッハッハ、何だ、俺様の正体がバレていたのか。これは予想外だな。人間だと思って少し油断していたかも知れないな。だが、俺様の真の姿については知らないだろう?」
そう言ってドヤ顔をすると、イケメンがみるみるうちに醜い姿へと変わって行った。その姿はオークによく似た、醜い豚の魔物であった。違うところは、オークと違って魔族の方が痩せていると言うことだろうか。しかしまさか、真の姿が豚だとはねぇ……。
魔族の隣で悲鳴があがった。その声はもちろん俺との婚約を破棄したカロリーナ伯爵令嬢である。まあそうなるよね。すでにもう一緒に暮らしていると言う話を小耳にはさんでいたし、あの魔族とあんなことや、こんなこともしたあとなのだろう。
その相手の本当の姿があれじゃあね。そりゃ悲鳴もあげるか。こりゃ、次のもらい手は見つからないかも知れないな。合掌。
ちなみにそれを見て悲鳴をあげた伯爵令嬢はそのままダッシュでその場をあとにした。逃げ足だけは天下一品である。
一人になった魔族だが、まだまだ余裕があるらしい。ニヤニヤとその顔をゆがませている。この場にイーリスを連れて来なくて本当に良かった。連れてきていたら、一生のトラウマになっていたかも知れない。一人でトイレに行けなくなっていたら……まあ、そのときはそのときで俺が付いて行けば良かったのか。ヤダ、もしかして、失敗しちゃった!?
そんなことを思っていると、クックックと魔族が笑い出した。
「愚かな人間どもよ。お前らごときに、この俺様が倒せるかな?」
魔族は片腕を天高く掲げると魔法を使うと思われる構えを取った。
しかし何も起こらない。
どうやらイグドラシルの素材は完全に魔族の力を封じ込めることができているようだ。首をかしげた魔族は今度は両手を前に突き出して、魔法を放つようなポーズを取った。
しかし何も起こらない。さすがはイグドラシルの素材。何ともないぜ。
「な、どう言うことだ! 貴様ら一体何をしただー! ま、まさか……」
ようやく気がついたのか、魔族が周囲の建物を見回した。そしてようやく気がついたようである。余裕が出てきたのか、今度は取り囲んでいる王宮騎士団たちが顔をニヤニヤとさせている。
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