第14話 空間移動の魔法

 俺は今、焼け野原となった大地の後片付けにいそしんでいた。

 ちょっと大きめの火の玉をぶつけたぐらいの感覚でいたのだが、実際に現場に行ってみると、大きな穴があいていたのだ。


 これはまずい。通行の妨げになるし、村の人たちに埋めてもらうとすればどれだけの労力がいるか分からない。そのためこうやって土属性の魔法を使って穴を埋めているのだ。


「テオは手加減をするってことを覚えた方がいいよ」

「……反省してます」


 ミケに正論を言われた。言い返せない。どれくらいの規模の魔法を展開すればいいか分からずに、それなりに魔力を込めたのは認める。だがこんな大惨事になるとは思いもよらなかった。


 そしてミケは「パパとママにはこのことを内緒にしておいてあげるから、しばらくお菓子を差し出すように」と脅してきた。くっ、足下見やがって。だが差し出す!

 か、勘違いしないでよね。別に両親が怖いとかじゃないんだから。ただこれ以上、両親に心労をかけるのは良くないと思っただけなんだからねっ!


「テオドール殿、本当に助かりましたぞ」

「いえ、当然のことをしたまでですよ」

「テオドール殿がいなければ、どれだけの被害が出ていたか……」


 アウデン男爵は今にも男泣きしそうな様子だった。さすがにこの状況で泣かれるのはまずい。周りにたくさんの人がいるからね。男爵の威厳にかかわるだろう。


「ミケ、周囲の魔物の状況は?」

「テオに恐れをなして森の中へと帰って行ったよ」

「フム、ならばよし。任務完了かな?」


 俺がミケに確認をしていると、騎士団の隊長らしき人がアウデン男爵の元に報告にきていた。さすが魔境からの侵攻から守る騎士団だけあって、アウデン騎士団はなかなか屈強の騎士がそろっているようである。これなら俺が手伝いに来なくても、問題なく討伐できていたことだろう。彼らの活躍の場を取ってしまったかな?


「テオドール殿、報告によると魔物の脅威は去ったようだ。だが私はまだここでやるべき仕事が残っていてな。先に屋敷に戻って報告をしてもらえないかね? みんな心配しているだろうからな」

「分かりました。私にお任せ下さい」


 アウデン男爵がこちらに気を遣っていることは明らかだ。報告のために帰るように言えば断らないだろうし、俺に不快な感情を与えることもない。帰りの馬車を用意してくれていたようだが、心配ご無用と断った。


「帰りは空間移動の魔法を使って帰るので問題はありません。あっという間ですから」

「く、空間移動の魔法!?」


 どうやら俺がすでに空間移動の魔法を使えることに驚いている様子だった。空間移動の魔法が使える家系はそれほど多くないのだが、我がモンドリアーン家には代々その魔法が伝わっている。


 うちと婚姻を結びたがる家があとを絶たないのはそのせいでもある。生まれた子供が使える可能性があるからね。子供が何人も生まれれば、養子として迎えることもできるのだ。その利用価値は計り知れないことだろう。

 

 まあ、それでも使える人はそれほどいないんだけどね。それじゃ何で俺がすでに使えるのかって? 自分、エリートですから。


「空間移動の魔法を使えば、行ったことがある場所ならすぐに移動することができるんですよ」


 驚きながらも感心しているアウデン男爵から報告用の書類を受け取ると、空間移動の魔法を使ってイーリスのところへと戻った。

 突然現れた俺がアウデン男爵家の人たちに驚かれたのは言うまでもなかった。先に言っておけば良かったね。こりゃうっかり。うっかり八兵衛にだってミスはあるんだ。



 アウデン男爵邸の前には別れを惜しむイーリスたちの姿があった。


「もう帰ってしまうのですね」

「ええ。ですが、いつでもすぐに会えますよ」

「それはそうかも知れませんが……」


 イーリスはかなり名残惜しい様子である。ミケとも随分と仲良くなったし、俺との関係も悪くない。俺も名残惜しいが、いつまでもここでお世話になるわけには行かないからね。


「国王陛下に婚約の報告に行くときには迎えにきます。手紙を出しますので、そのときはよろしくお願いします」

「お待ちしておりますわ」


 正式に両家の婚約が決まると、国王陛下にそのことを報告しに行かなければならない。それによって、その婚約が王の名の下に成立したことを国民に知らしめることになるのだ。要するに、王の権威を貴族たちに示そうと言うわけである。


 そんなわけで俺たちは、近々そろって国王陛下に挨拶に行かなければならないのだ。多分そのときにミケのことも話すことになるのだと思う。守護精霊持ちが国にいることは、政治的にも大きな意味を持つだろうからね。その後どうなるかは分からんが。

 まあ、俺の機嫌を損ねるとまずいことだけは分かってもらえるだろう。


 俺は別れを済ませるとすぐに実家へと帰った。帰ってきたことを使用人に告げると、母上が出迎えてくれた。


「テオドール、ただいま戻りました」

「随分と早かったですわね。……もしかして、何かありましたか?」

「いいえ? 空間移動の魔法で帰ってきたので早かっただけですよ」


 事もなげに言った俺を、遠い目をした母上が見ていた。どうしてそんな顔をするんですか。何かまた俺がやっちゃったみたいじゃないですか。

 父上はどうやらセバスチャンと秘密の話をしているらしい。二人きりでの密談。どうせまたろくでもない情報が入ってきているんだろうな。嫌な予感しかしないよ。

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