その事件はネットで拾った画像から端を発した

第1話

事件の発端はネットで拾った一枚の画像からだった。ただ人が物を食すだけの画像が何故かバズっていた。なのでグルメでもない俺も少し気になったわけだが、確かにどこかおかしい。それをナニがどうおかしいか説明できれば直ぐに興味も失せていただろう。だからメールに添付してギークな友人に送ってみたところから「これ、何に見える？」「アイス食べてる写真のナニが面白いですか」「だから、この人物が頬張っている食べ物のことだよ」「アイスでなければ果物じゃあ」「確かにとてもジューシーだ。果物なら赤い果汁を多量に滴らせている」「果汁ならな」「この写真の撮影日を見てみろ」「つい最近じゃないですか」写真に埋め込まれたイグジフを見ると「君が使っているデジイチだけどさ、キャムコンのフラッグシップ機のデジ一だったよね」確かに「そうだ。ついこの間内蔵をえぐられた死体が発見された事件があったろ」「これがその事件と関連があるとしたら写真の人物が食べてる物は果物じゃないって言うんですか」「そうは言ってない」「ただ、面白い一致だなと思って。後、これなんだけどな」「まだあるんですか」「夜は長い、そう慌てなさんなって。この店だけどさ」「こ、これって『チョコパフェパパ』じゃないですか。あそこ好きでよく行ってたんですよ」「そうみたいだね。だからこそ君にこの写真を送ったんだ」

その年猛威を振るった伝染病で中止になった夏祭りの記録のホームビデオをキャプチャーしたスクリーンショットに廃業で閉店したカフェが映っている。店の売りのチョコパフェももちろん美味しかったが俺は店員の女の子が目当てで結構頻繁に通った。その猛威を振るった伝染病というのが一部の間では生物兵器だったという噂だ。出処もあやふやな情報だったがマスコミが必死に隠したがったという点が気になった。

興味本位に眺めていたがどういう理屈で映り込んでいたかわからないが写真は、まだそのカフェが盛況だった頃の幻視が映像化されているようで店内には客の姿が認められ、その店内照明や周囲の明るさから鑑みて終業前の状況が捉えられているようだった。ということは　やはりそうだ、最後に店の前の清掃に出て来る店員は見紛うことはない髪型や身長、ナイスバディなその他の特徴からいっても俺が好きだった彼女に間違いない。あの事件で被害に遭った彼女は比喩も含めてオオカミに襲われた少女の悲劇という見出しでニュースペーパーや報道番組を賑わした。それを受けてある議員が「オオカミは生きろホモは死ねという」何処かで聞いたようなキャッチコピーを真似た失言で所属政党への大バッシングを招いたことで世間を騒がし辞職に追い込まれた。『モンスター』それが新型の生物兵器に与えられたコードネームだ。通話を切って床に置いた筈のスマホから未だに途切れずに声が響く「『オオカミ男ウイルス』どうやらこれに感染すると例の事件の犯人のように人間を襲ってしまうみたいだな。勿論この情報はあちら側の研究室から出た実験データによるものだ。外部に漏れるとまずい」外が何やら騒がしい。拡声器を使って流される昭和桃色女の歌が聞こえるパチンコの新規開店の宣伝らしい。偶然の一致か？悶素股という放送禁止用語ギリギリの懐かしい歌だ。「それでだな、国外逃亡の手配が為されているこのパイプを利用して渡して貰った方がいい。さもなくば君は少なくとも数十年は勾留されるだろう」悶素股ァ〜この渡しの可愛い秘逃〜」「君の家は既に公権力の徒によって包囲されている。君が解剖され君の体からオオカミ男ウイルスが見付かるようなことがあれば奴等も黙っていない。知ってる通りこの国は奴等の手先だらけだ。奴等が手先の手引によって暗殺を実行するだろう。そういうわけで君は遅かれ早かれ死ぬ。発症して人を襲い射殺されるか、死刑をもって裁かれるか。