ミッション
第160話
──ピンポーン
私はバイト帰り、凛の住むマンションへとやってきた。
彼のご両親は共働きで忙しい時期にはほとんど家へ帰ってこないと言っていた。
風邪をひいてるのに一人は心細いだろうから
……っていうのは建前で。
ただ、バイト中も美琴ちゃんの言葉が頭から消えなくて──抱えたままだった不安を少しでも取り除きたかったから。
なんだか緊張する凛の家。
実は私がここに足を踏み入れるのは初めてなのだ。
「はーい……」
呼び出し鈴を押してから少し間が空いて、ドアの向こうから聞こえた足音とダルそうな声。
それは紛れもなく凛のもの。
わざわざ彼が出てくるってことは、やっぱりお家の人はいないようだ。
ガチャッとドアが開いて、彼の熱で潤んだ瞳が私を捉えると……びっくりしたように目も口も大きく開けた。
「え……まやちゃん……?いやまってそんなはずない。熱で幻覚……!?俺はもう死ぬ……!?」
「帰る」
踵を返して去ろうとしたら服を掴まれて
「わああああ!!まってまやちゃん嘘だよおおおお!!」
って泣きつかれた。
「……来たらまずかった?」
そう聞くと、首を取れるんじゃないかってくらい横に振る凛。
「そんなわけない!!今日はまやちゃんに会えないと思ってたから、嬉しい」
へらっと弱々しく笑う彼はやっぱりまだ体調が悪いみたいだ。
玄関に入ると、凛の家に来たという実感が今更ながらに湧いてきてソワソワしてしまう。
どうぞ、と彼の部屋へ通される。意外にも整頓されている室内を見渡すと、今度は凛が落ち着かない様子でもぞもぞしていた。
「……それで、どうしたの??」
ベッドに座って隣をポンポンと叩くこの部屋の主。
そこへ同じように腰掛けると、肩が重くなって凛の頭が乗せられていることに気付く。
「……生きてるかな、と思って」
耳元で聞こえる声に、少し荒くなった息。
緊張気味に答えると
「心配、してくれたんだ……」
ぼそっと呟いて
「へへっ……ありがと……」
甘えるように、凛の腕が私の腰に回った。
「ちょちょちょちょ……!!!」
あまりの恥ずかしさに抗議の声をあげるが、凛は聞こえていないフリ。
ぎゅっと力を込められて抜け出せなくなった。
「あー……元気でる……」
そんな風に言われたらこっちの口元まで緩んでしまう。
……来て、よかったなあ。
なんて、柄にもないことを思ってしまった。
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