第145話
そして私はその時見た、神永君の顔をきっと一生忘れないだろう。
今まで見たことのないくらいの無表情。
怒りをそのまま表したかのように震える拳。
発した声は驚くくらい低くて
──彼が今までにないくらい怒っていることが分かった。
「ふざけんなよ……まやちゃんにこれ以上近づいてみろ。──俺、お前のこと殺しちゃうかも」
その言葉は冗談でもハッタリでもなくて、本気だということが私にも伝わってきた。
それは殴られた男も同じだったようで、神永君が力を緩めると悔しそうに走り去って行った。
上半身を起したまま呆然とする私。
神永君は我に返ると私の腕を掴んで、立たせてくれようとする。
……だけど、足に力が入らなくてまたへなへなと座り込んでしまう。
──腰、ぬけたかも。
「あ、ごめん……」
情けなくて、乾いた笑いしかでてこない。
「なんで、まやちゃんが謝るんだよ……!!」
まだ気持ちがおさまらないのか、イラついたような声。
荒々しく私を抱きよせる神永君のぬくもりと彼の匂いにひどく安心した。
「ごめんっ、まやちゃん……。俺が、そばにいなかったから……!!守るとか偉そうに言っておいて、結局まやちゃんに怖い思いさせちゃったね……。ほんと、ごめん……」
彼の謝罪に、私も涙が出てくる。
多分、神永君も泣いている。
「なんでよ。神永君がやっつけてくれたんでしょ……。来てくれてありがとう……助けてくれて、ありがとう……」
彼の鼻をすする音が聞こえて顔を上げると──彼はもう、笑っていた。
「へへっ……。まやちゃんの、『ありがとう』は魔法の言葉だね。俺をこーんなに、幸せにするんだもん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます