第93話


「……先生のバカーーーーっ!!!」


 大きく響いた声。だけどそれを聞いているのは神永君だけ。


「期待させんなーーーーっ!!」


 思いっきり、叫んだ。


 声が裏返ったって、気にしない。


「好きじゃ、ないなら……っ!!」


 視界がぼやけていくから上を向いて、瞬きを何度か繰り返した。


「優しくしないでよっ……」


 喉がぎゅっと締め付けられるみたいに苦しくなったのは、大声を出しているからだけじゃないと思う。


「……っ、大好き、だったよ……」


 そう呟いた瞬間、無意識のうちに流れた涙。


 一度零れたものは拭っても拭っても止まらなくて嗚咽まで出てくる。




「──まやちゃんは素敵な恋したんだね」


 神永君がそう言ってくれたからまたどうしようもなく泣けてきて、彼の腕を思わず掴んだ。


「……おいで、まやちゃん」


 大きく両手を広げている神永君に、黙って首を横に振ると


 「だーめ」と強制的に彼の腕の中へ。


 その大きな胸に頬を寄せると左手でぎゅっと私の身体を抱きしめて、右手で優しく髪を撫でてくれる。


 神永君のシャツに涙の染みがどんどん広がっていく。


 だけど彼は

「好きなだけ、泣いたらいいよ。いつだって傍にいてあげる」


 ──また、そんな甘いセリフ。だけど酷く安心して


「……ありがとう……。神永君」


 そう伝えるのが精いっぱいだった。


「いーえ!俺は俺のためにまやちゃんに優しくしてるんだから、感謝されることなんてないんだよ?いーーっぱい優しくして、俺の事すきになってくれないかなって思ってるもん。──腹黒いでしょ、俺!」


 ……自信満々に「腹黒いでしょ」って言える彼は純粋すぎる。本当に腹黒い人はそんなことわざわざバラさないよって言ってあげたい。



 ──だけど嗚咽が邪魔をしてうまく喋れない私は、泣きながら笑うしかなかった。

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