第82話


「──大丈夫?」


 ……何故、ここに神永君がいるのか。


 HRが終わって帰る準備をしていると騒がしくなる教室。

 嫌な予感がして振り返ると至近距離にイケメンの真顔。


 ……怖いわ、普通に。


「何の話?」


 そして「大丈夫?」と問いかけられても私には何の事だかさっぱりだよ。座ったまま、立っている彼を見て首を傾げると


「それ、ダメって言った!!」

 って謎に怒られてもう訳が分からない。


「一体君は何が言いたいんだ」


 真顔で言うと、何かを考えるように腕を組んだ彼。そして顔を上げたと思ったら私の頬を撫でて


「──いや、何でもない!!気をつけて帰ってね?寄り道しちゃだめだよ?」


 肝心なことは、何にも言わないで教室から出ていった神永君。


 頬、撫でる必要あった!?



「……子どもじゃないっつーの」


 触られた左頬を押さえながらそう呟いて、私も帰ろうと荷物を担いだ。


 ──この時、神永君の言うことを素直に聞いていればよかったのにね。







 神永君の言葉に従うのが何となく嫌で、電車に乗ってショッピングモールへ行った私。基本的になんでも一人でできちゃうから買い物だって一人でも平気だった。


 一目惚れしたいつもは買わないような可愛いワンピースを買って、ルンルンで帰りの電車へ。このワンピース神永君が好きそうだなって思ったのは内緒。


 そして、買ったのはワンピースだけじゃない。神永君に似合いそうだな──って考えていたら無意識のうちに買ってしまっていた黒い石のついたシンプルなピアス。


 彼がいつもおしゃれなピアスを着けているのは知ってたけど、なんで私が買ってしまってたのかはわからない。

 特別な日でも何でもないし、彼女でもないのにプレゼントだなんて重いかな、なんて思うけどまあ多分そんな心配は無用。



 そのピアスを大事に鞄のポケットに入れると、彼に渡すタイミングを考えたりなんかしちゃって。



 ──きっと電車の中、イヤフォンで音楽を聴きながら口元が緩んでいただろう。

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