君がくれるもの
第74話
あれは──そう、中学三年の夏。
お母さんが家庭教師を「勝手に」頼んでいたことを、その先生が来る当日まで一切知らされていなかった私。
人見知りの私にとって知らない人と部屋で二人きりなんてものすごく嫌だったのに、抗議した私に追い打ちをかけるかのように告げられた、その相手が男だという言葉に意識が遠のきそうになった。
だけど確かに、第一志望の高校を受験するにはまだ点が足りなくて、一人で勉強するのにも行き詰まり困っていたのも事実。
そして何より、私がお母さんの勝手な行動を批難する間もなく、家の中に鳴り響いた呼び鈴の音が駄目押しとなった。
さすがにここまで来てもらっておいて追い返せるほど、常識知らずじゃないし子供でもなかったから。
──今思えばこの時もっと拒否していたら、こんなにも辛く苦しむこともなかったのかな、なんて。
悲劇のヒロインぶってみても時間は戻らない。
「──こんにちは」
今とちっとも変わらない爽やかな笑顔。少し違うのは、あのころはまだ少し幼さが混じったような可愛らしさがあったこと。彼は大学生だった。
先生の優しさと人懐っこさで私はすぐに打ち解けた。
先生の教え方は正直すごくわかりやすかった。どんどん上がっていく成績は先生の丁寧な教え方のおかげなのか──先生に褒められたくて必死で教科書や問題集にかじりついていた私の努力の賜物だったのかは定かではないけど。
そして先生は時々、花と甘いセリフを贈ってくれた。
なんの変哲もない日に、「綺麗だったから」という理由で持ってきてくれるときもあった。
「マヤちゃんには白い花が似合うね」
そう言って白いヒヤシンスや白いフリージアを持ってきたこともあったね。
ヒヤシンスは「控えめな愛らしさ」、フリージアは「あどけなさ」。
今でも彼がどこまで花言葉を知っているのか分からない。
だけど、中学生相手だとしても、女性に花を贈るなら……花言葉くらい調べておきなさいよ。
今となってはそんな文句しか思い浮かばない。
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