第66話
「ねえ──まやちゃんはあの人が、すきなの……?」
……そんなこと、もう確信しているはずなのに。
その質問の答えを口にすれば私も──そして神永君自身も深く傷つくことになる。
「……神永君は、知らなくて良いよ」
これ以上自分自身も神永君も苦しめたくないのと、彼の意図することがわからない苛立ちとで上手く流す言葉が思いつかない。
「──すきなのに、どうして認めないの?」
思わず勢いよく顔をあげると、いつもより冷たい神永君の瞳。
「本当にすきなら奪っちゃうくらいの勢いでいかなきゃ」
……一体、彼が何をしたいのか分からない。
どうしてそんなアドバイスのような、私の背中を押すような言葉を言えるんだろう。
「そんなんだから取られちゃうんだって」
いつもいつも甘やかしてくれる神永君の辛辣な言葉。その投げ捨てられた言葉に慣れていない私はだんだんと涙が溜まっていく。
……ここで泣くのは卑怯だ。そう思えば思うほど溢れて止まらなくなる。
きっと私は神永君の安心する手で慰めて欲しかったんだと思う。優しい声で甘やかしてほしかったんだろう。
彼が望むことは何一つしてあげていないのに、自分の望みを満たしてくれない神永君に傷ついた気分になる私は相当嫌な女だ。
これ以上、神永君に詰め寄られるのが怖くて私は、逃げ出した。
人目なんて気にしている余裕はなくて、がむしゃらに走る。
向かう先は──陸の家。全ての事情を知っていて、私を安心させてくれるのは陸しかいない。
……なんて、卑怯な女だろう。
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