第65話
「──彼女さん、あんなに可愛い人だったんだ……写真よりもっと可愛かった」
ぽつりと呟いた言葉は私の手を引く神永君の背中にも届いたようでぴたりと足を止めた。
「……んー、でも俺はまやちゃんのが可愛いと思うけどね」
振り返って繋がれていない方の手で私の頭を撫でる。
「……もうそれ聞き飽きた」
優しい表情の彼になんだか照れくさくなって視線を逸らすけど、私の顔を覗きこむから視界いっぱいに神永君の顔が映ってそれも意味を成さなかった。
「俺は言い足りないよ?」
ふっと意地悪く笑う神永君は、私が照れているのを知っていて追い打ちをかけようとする。
「──なんで、否定しなかったの?」
私から少し離れて尋ねる彼はどこか不満気だ。
最初はなんのことか分からなかったけど、きっと先生が神永君を私の「彼氏だ」と勘違いしていることを言ってるんだろう。
「……別に」
神永君のことだから、「否定しないってことは付き合ってもいいってこと!?」とか言い出すんだろうな……。と思っていると
「俺は嬉しいからいいけど、さ。誤解されちゃったよ?」
なんて私の心配をするお人よしな彼。
そしてやっぱり、神永君の掴めない言動に振りまわされっぱなしだ。自惚れた自分に恥ずかしくなる。
「いいよ、別に」
吐き捨てるように言ったのは先生のことを思い出して嫌気がさしたから。
すると神永君はピクリと眉をひそめる。
「……自暴自棄になってる。だめだよ。俺のことすきじゃないのに、そんなこと言っちゃ」
優しいけど、どこか棘のある言い方。
「俺、どうしたらいいか分からなくなっちゃったじゃん」
そう辛そうに笑った神永君を見て、初めて自分が彼を傷つけてしまったことに気がついた。
……そっか。
神永君は私のことが「好き」なんだもんね。彼氏だということは否定しないくせに、彼と付き合うつもりもないんだもん。
神永君は期待するし、その分傷つくよね。
「あ、ごめ──」
先生を諦めるために利用する形になってしまったことを謝ろうとすると
「いいよ、利用しても。俺はまやちゃんになら何されたって許しちゃうんだもん」
それを遮って、今度は困ったように笑うからそれ以上何も言えなくなってしまった。
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