第57話
自分の勉強もひと段落ついて、神永君を見るとまだ問題集とにらめっこしている。
休憩がてら本でも読もうと立ち上がった。
「──あれ、まやちゃんどこ行くの?」
立った私を見つめる瞳は自然と上目遣い。
「……ちょっと休憩」
思わず目を逸らして答えるとうーんと背伸びをして
「俺もーっ、これ解けたら休憩っ!」
と言う神永君。「了解」とそっけなく返事をしてそそくさと本棚へ向かった。
……マジで上目遣いはヤバいから。
少し火照った顔をぺちぺちと叩いて本を選ぶ。
……そういえば、一緒に勉強するの一時間って約束だったの忘れてた。
壁にかかっている時計を見ると、約束していた一時間から二十分ほど過ぎている。でもまあ、思った以上にちゃんと勉強してるんだからそれを遮るのはよくないよね。
そう考えて再び本棚に視線を移す。なんだか自分に言い聞かせてるみたいだったけど深く考えないことにした。
「──あ」
ふと目に入った、前から読みたかったそのタイトル。一番上の棚にあるから私の身長では到底届かない。神永君を呼ぼうかと思ったけど、勉強の邪魔になっちゃいけないからやめた。
何度か背伸びしたり飛び上ってみたりしたけど無謀すぎるチャレンジは失敗に終わった。
うーん、と唸りながらその本を見つめていると
「──これですか?」
横から腕が伸びてきて私の目当てのものを軽々と取った。
「どうぞ」
手渡してくれるのは上履きの色からして後輩の男の子。
「あ……ありがと」
背が高いその子に目を向けるとその整った顔立ちに驚いた。
……イケメンだな。
イケメンには目がない私だけど、今はそれよりも手元にある本だ。これから読めることに喜びを感じて本を抱えると「ふふっ」と笑ってしまった。
「読みたかったの、これ。本当、ありがとうね」
微笑んだまま彼に再びお礼を言うと軽くスキップしながら席へと戻る。
「……美人だな」
そんな後輩君の言葉なんてもちろん耳に入らなかった。
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