第58話
本を持って帰ってくると机に突っ伏している人影。
それは紛れもなく私がさっきまで座っていた向かい側の席。はあ、とため息をついて彼の横の席に腰掛ける。
彼の身体の隙間から見えた問題集は細かく数式が書き込まれていて、答え合わせもしたのか大きく赤丸が付いている。
……問題、解き終えたんだ。
「……やるじゃん」
顔を覗きこんだら、すやすやと眠る神永君。その寝顔さえもすごく綺麗だ。
ずっと集中していたから、少し休ませてあげよう。私もそんなにスパルタじゃないしね。じっと彼の寝顔を見つめていると思わず微笑んでしまう。
そのまま気がつくとあっという間に15分が経っていて、あれだけ読みたくてうずうずしていたはずの本も結局開けていないまま。
……どんだけ見てたの、私。そろそろ起こそうと神永君に声をかける。
「おきろー」
ぷにぷにと頬をつついてみたりサラサラの髪に手を伸ばして思わず撫でてみたり。
なんだか楽しくなってきて今度は彼の鼻をつまむ。
「んー」
息ができなくて身をよじる神永君にぷっと吹き出した。
「……かーわい」
思わず出た自分の言葉にハッとした瞬間、寝ているはずの神永君に手首をパシッと掴まれた。
「可愛いのはどっち……?」
薄眼を開けて私を見る神永君は妙に色っぽくて、慌てて手を離そうとするけど掴む力が強くなって抜け出せない。
「……どしたの、まやちゃん」
その問いかけは彼を起こしたことに対してなのか、私の真っ赤に染まった顔についてなのか。
私にはわからなかった。
「……起こしてんの。休憩おしまい」
そう言うと、「んー」と力の抜けた声で返事をした。そして彼の手が握っていた私の手首からするすると移動して指を絡められ、いわゆる恋人繋ぎに。
「まやちゃん……、すき……」
へにゃん、と微笑む神永君は寝起きだけど童話に出てくる王子様のようにカッコいい。
そして──頭は机に乗せたまま、ちゅっと私の指に口付ける姿はどんな王子様よりもキザなんだろう。
……だめだ、また。心臓が痛い。陸助けて!!
心の中で陸に助けを求めていると気がつけば再び目を閉じている神永君。
「おやすみ──」
バシッ
「いや起きろよ」
……残念だったな。
どれだけカッコよくてもどれだけキザでも私はその手には乗らんぞ。
彼の頭を叩いて目覚めさせた。
「──わああああ。まやちゃんに叩かれちゃった!!」
喜んで起きるこの男は本当に理解不能。そして静かな図書室に響いた神永君の声に、私はまたこの学校で新たな黒歴史を刻んでしまったことに頭を抱えたのだった。
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