第50話
「だけど怖いよ……」
そう言葉を漏らしたら、髪を撫でる手が一瞬止まった。
「信じてもいいのか、わからない」
陸は知ってる、私の記憶に留まり続けている「彼」のこと。
そのことに関しては陸に散々相談して迷惑をかけた。
私が辛そうにしていると陸も辛そうで、私に面と向かって言わないだけで彼に対して怒りを感じていたのは確実だと思う。
「──俺は、いつでもマヤのそばにいるから」
優しいその言葉に少しだけ心が軽くなる。
「どんなことがあっても、ずっとそばにいたでしょ?」
そう自信満々に笑う陸に反論なんてできない。
……だって間違ってないから。
「悩む必要なんてないんじゃない……?マヤがしたいようにすればいい。もしも神永がマヤを傷つけるようなことがあれば、俺がぶっ飛ばすから」
微笑む陸。だけどその目にはすこし悲しみが含まれていて戸惑ってしまう。
……陸は時々、こうやって寂しそうな表情をする。幼馴染の私が離れていってしまうのが寂しいのか、彼氏や好きな人ができた時にこの顔をよくする。
それなのにちゃんと私の応援はしてくれて、一緒に悩んでくれるから陸の彼女になる人は幸せだと思う。
「……頑張れ、マヤ」
髪を撫でていた手が私の頭を引き寄せて、陸の肩に乗せられる。物心ついた時から触れ合ってきた温もりに安心して、また涙が出る。
「大丈夫、大丈夫」
子どもにするみたいにあやすから、少しムッとしたけどチラリと見た陸の顔に何も言えなくなる。
──なんでそんなに、苦しそうなの?
寂しそうな顔は知ってる。私が辛そうにしてると怒ってくれる。悔しそうな顔をする。
だけど、陸が苦しむ顔なんて知らないよ。
何に苦しんでるの…?
その理由なんて想像もつかないまま陸の優しい手つきに身を任せてそっと目を閉じる。
「傷つくのが怖いなら──俺にすればいいのに」
そんな陸の呟きは、眠った私の耳には入ってこなかった。
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