第49話



 ──コンコン


 何故か流れた涙を拭った瞬間、ドアがノックされた。慌てて起き上がって

「誰?」

 と問いかけると返ってきたのは「俺」の一言。


 こんな時間に、訪ねてくるのは一人しかいない。


「陸……?」

 そういえば、「マヤの家行くから」みたいなこと言ってたな。


 ガチャッと控えめにドアが開く。覗かせたのは心配そうな幼馴染の顔。


「……なんか、あったの?」

 入って早々の陸の言葉に思わず目を丸くした。


「……なんのこと?」

「いやだって、声……。泣きそうだったじゃん」


 正確には泣いてたんだけど、ドア越しに呼んだ陸の名前──それだけで分かっちゃうなんて幼馴染は侮れない。自分でも声が震えた自覚なんてないのに。


 陸は部屋に入って、ベッドに座る私の隣に腰掛けた。そのまま私の顔を覗きこんだから自然と顔が近付いて、思わずのけ反る。


「な、なに……」

「その理由って──」


 眉を下げて困った顔をした陸は本当に子犬のよう。ちらりと移った目線は、机の上の花冠。


「──神永?」


 そう呟いて、どこか悔しそうな表情をする。


 ……どこまで、私のことが分かるの?


 無意識のうちに目を逸らしてしまった。でもそれがいけなかったのか

「図星だ」

 言い当てられてしまう。


 そしてこのやり取りは、さっきまで一緒にいた彼を思い出させる。



「──ねえ、陸……」


 この胸の痛みに耐えるように眉をぎゅっと顰めて陸を見る。


「どうしよう」


 ゆっくりと吐きだす言葉を急かすことなく、聞いてくれる。


「神永君が、好きって言ってくれる度にね」


 拳を握ってみても痛みは消えない。


「ここが、痛い」


 ポンポンと心臓辺りを手のひらで叩く。


 陸の顔をちらりと見てもその顔から感情は読み取れない。ただ、真剣な表情で私を見つめるだけ。


「喉がぎゅって詰まって、声が出なくなるの」


 そう伝えるこの瞬間でさえも喉が詰まるから誰か助けて欲しい。


「……うん」

 相槌を打つ陸はそんな私を見兼ねてか、温かな手のひらでそっと髪を撫でてくれる。

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