第39話


 神永君に案内されながらついたのは自転車置き場。私は普段利用しないからなんだか新鮮だ。


「──んで、どこ行くの」

 そう尋ねてみても笑ってごまかされる。自転車を出して荷台をぽんぽんと叩く神永君。


「まやちゃん、乗って乗って!!」

 そう言われるがまま二人乗りをする。私はスカートだから横向きに座って神永君のシャツをつまんだ。

「……だめだよ、まやちゃん。ちゃんと掴まって」


 シャツを持つ手を掴まれて、彼の腰へまわされてしまうと恥ずかしくて顔が熱くなった。


「まやちゃんが落ちたら困るもん。俺の嫁入り前に、怪我なんてさせない。……まあ怪我してももちろん責任はとるよ?」


 ……うん。もうツッコむことにも疲れてきたわ。


「……いいから早く出して」

 そう告げると、私の方を振り返って


「ん。じゃあ出発~!!」

 と満面の笑みで言う。


 自転車が動き出すと、風がいつもより感じられて気持ち良い。それに加えて、神永君の体温が丁度よく眠気がやってくる。

 緊張が少し解けて自分の頬を彼の背中にぴたっとつけてみた。



「──ねえ」

 頬をくっつけたから必然的に耳もくっついていて背中から彼の声がダイレクトに響く。


「……はじめて、まやちゃんから俺に触ってくれたね」

 嬉しそうな彼の声が、とても耳に馴染んで心地よかった。


「……一回、触ったじゃん。胸ぐら掴んだ時」

「え!?それ、カウントしちゃうの!?」


 彼が動揺して大きく自転車が揺れるから

「ちょっと!安全運転してくれる!?」

 顔を彼から離して怒ってみせる。


「ご、ごめんっ」

 わざわざ振り返って謝る神永君に

「前を見なさい!!」

 ぺしっと彼の頭を叩いた。


 慌てて前を向く神永君はしばらく「あー」とか「うー」とか唸ったあと、後ろにいる私に聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで呟いた。


「……さっきの、幼馴染君……家に行くくらい、仲いいの?」


 さっき、陸が「家に行く」なんて言ったもんだから、気にしているんだろう。


「まあ。時々ね」


 そう答えると彼の背筋が伸びて、強張った。

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