第35話 チュージ4 アントナイト
しかしなんだこの枝分かれの多さは。
アントどもが改築工事でもしてんのか。
それに影に隠すように別の通路がある。
隠し部屋?
俺には見え見えだが
一見突き当りの様なところにも通路があったりする。
亀と鑑定男が言っていた。ここは地下4階だと。
未踏のルートも少ない。
浅層なら地図を見なくてもだいたい覚えている。
だがアントどもの増築によりめちゃくちゃに分岐している。
登りも下りも右も左も、分からなくなってきやがった。
冷静になれ。
暗いのは問題ない。
こちとらネズミだからな。
アリは避けられる。
あとは正しいルートを探すだけだ。
走る。休む。そしてまた走る。
このダンジョンは浅層でももう初心者向けじゃねえな。
ところどころにアリの進化個体がいやがる。
ジャイアントはいないが
鉱石系、毒系、羽つきは確認した。
アリの大量発生
これだけでも外に伝えなきゃ死人がでるぞ
次々とな。
封鎖すべきだ。
こんなやばいダンジョン。
俺も鑑定あったらな。倒せる奴だけ倒して進むんだが。
こいつらの強さがいまいち分からん。
小型といえば人型。
アントナイトっていったか。
あれはやばかったな。
ほぼ人間サイズ。
あんなの簡単にダンジョン外に抜けてくるぞ。
どん。
おっとっとっと。
なんか肩にぶつかったわ。
一瞬黒い岩?が見えたような。
振り向く。
こいつは・・・アントナイト!?
なんだこいつ!?全く感知できなかったぞ!
気配がない。こんなに目の前にいるのに!
無表情でうつむいている。
立たせたアリに人間の顔を取って付けたかのようなフォルム。
人型ってのはどいつもこいつもいかれた思想をもつ危険種って話だが。
こいつはどうだ。
なに考えてるかさっぱり分からねえ。
ただぼーっと立っている。
逃げられるのか。この距離で。
無理か。
アントはスピードが速い種だ。
その上位種だもんな。
鉱石系はのろかったが。
こいつは重そうじゃないしな。
でも臨戦態勢にも入ってねえ。
ゆっくりと後ずさる。
いいんだな?行くぞ?逃げるぞ?
1歩、また1歩と距離をとる。
よし、次の1歩で振り返って走る。
そうしよう。
なんでこういう時に限って一本道なんだ。
アントナイトが顔を上げる。
アリの腕の様な形状の剣を片手に取ると一気に距離を詰め剣を振る。
え?空振り?
俺は動かなかった。
いや動けなかった。
独特な一振り。
そうか。
関節の可動域が、構造が違うからか。
めちゃ早かったな踏み込み。
で、なんではずした?
顔はさっきより上がっているが、まだ俺の横の壁をみているような。
見えてないのか?
音で感知しているのか?
まだ暗闇になれていないのか?
アリなのに?
分からん。
がチャンスだ。
逃げるチャンス。
でもこいつがこの一本道で先の魔法をぶっ放して来たら?
だめだ。
やるしかない。
双剣をかまえる。
敵が俺を感知してないいまがチャンス。
戦闘を行う覚悟を決め俺は切り込んだ。
獣人刀術
「獣字切り」
「追い牙」
「根突身(ねずみ)」
アントナイトが吹っ飛ぶ。
硬い。俺の刀のほうがかけたぞ。どうなってんだ。
胸、首裏、振り返った身体にみぞおち突き。
全部大したダメージはないな。
こいつはナイト。全身鎧ってか。
渾身のフルコンボだったんだがな。
まずいな。戦闘モードにはいったって顔になっちまった。
あいかわらず見えてはないみたいだ。
よくわからん構えで壁の方に向いてる。
どうする?
こいつカウンター狙いだろ?
自分から攻撃してこないなら好都合か。
獣化だ!
俺はネズミ。
獣化しても指がある。
刀を持てる。
腕力を最大にひきあげ、
獣の力で振る。
首の鎧の隙間からV字に刀を入れて切り落としてやる。
獣化には
変身中無防備になる一瞬があるがこいつ見えてないしな。
意識を戻せる50%までの獣化。
これで仕留める。
チュージの全身が大きくなる。
腕、太もも、腰、胸。
完成だ。
一撃で終らせる。
意識がもたん。
双剣を振りかぶりチュージは飛んだ。
全体重を乗せるために。
飛んだあとでアントナイトは方向を転換した。
チュージの飛んだ方向、その地面の砂や石がわずかに揺れるのを察知して。
先に刃が届いたのはチュージの刀。
アントナイトの胸まで両刀が到達し首が落ちる。
地面に首が落ちるまでのあいだにアントの身体が動く。
は?
無防備のチュージの身体が刻まれていく。
チュージが体を蹴り飛ばすと
それは地面でのたうちまわりやがて絶命した。
くそ。
意味が分からん攻撃しやがって。
とにかく勝った。
死んだよなさすがに。
筋肉ダルマになっていたから
致命傷は避けられたがさすがにきついな。
かなり出血したが。
大丈夫だ。
獣人は治りが早い。
これレベルアップめちゃしてるだろ。
どう考えても格上の相手。
鑑定が楽しみだぜ。
ん?
とまらないな。
いつならこう治っていく感じがするのに。
こいつの刀、まさかジャイアントクローの腕か!?
出血とまらなくなるとかオーク鑑定士が言ってたあれか!?
くそ。
やるじゃねえか。
だが冒険者には状態異常回復薬ってのがあるんだぜ。
ごくっと。はい1発完治。
高いんだけどな。
ん?
おいおいおい。
なんかこっちにアリの大群が押し寄せてる。
なんでだ。血のニオイか?
こいつの死臭?
・・・そうか集合フェロモンか。
この数はやばいな。
逃げるか。
あ。ダメだここは一本道。
前からも来てる。
こいつここで待ち構えてたのは俺をはめるためか。
人型アント。
やるじゃねえか。
奥の手ってやつか。
前の方が手薄だな。たぶん。
巣の位置が後ろより遠いんだろう。
てことは前だな。
やり合うべきなのは。
ちょっと自信がついたよ。
アントナイトにも俺の攻撃が通用する。
ってことは前から来る雑魚にも通用するってこった。
前の何体か・・・おそらく8体か。
こいつらを切り抜ければいい。
それにこの一本道、長くてわかりにくいが登坂になってるな。
この傾斜から考えるにもうじき地上だ。
前の8体がダンジョン最後の相手になるかもな。
じゃあな。
上り坂に向かって走り出した。
前から来る8体が1歩ごとに鮮明になるように感知できる。
移動スピードはまあまあ
群れの大きさは8体くらいか
1体1体の大きさ1mちょっとくらいか
雑魚だな、地表に近いしな
そう思っていた。
だが気づいたときにはもう遅かった。
俺は完全に誤解していた。
前から来る8体は全部二足歩行。
人型だ。
8体の人型。
戻るという選択肢はない。
後ろからも大群が追ってきている。
前のやつも目が見えない可能性は?
いや、集合フェロモンぶっかけられてるよな。
全身あいつの体液まみれだ。
正面から斬ってやったしな。
どうせ死ぬなら。
完全獣化
さらに加速する。
やはり人型。
人型アントがみえてきた。
その後ろに地上の光が差し込んでいるのを確認した。
とまあ、ここまでが俺の獣人としての記憶の最後だ。
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