第13話 小林あかり

 夏休み前の放課後。

明日は特別な日。

だから私は早く帰りたいのに

下駄箱で岡村君が待っている。私を探している。そんな雰囲気。

私に告白する気かしら。

そうに違いないわ。

授業中とか帰り際とか視線がすごいのよね。

確かに私はかわいいけど。

3次元の男に興味ないのよね。



明日はコミケ。年に2度の。

決戦の日なのよ。

コスプレも用意したしこの日の為にバイトで軍資金も稼いだ。

私の好きなBL同人マンガ家のぽんず様の最新作がでるのよ!


告白したけど振られたみたいな雰囲気を教室でだされるのが嫌。

周りからなんか言われるのももっと嫌。

同じクラスだから後々絶対面倒なことになる。



お願いだから早くどっか行ってー



神様にお願いしたら異世界転移した。



違う。そうじゃない。そうじゃないよ神様。



いやこれ明日のコミケ絶対いけないじゃん。

悲しい。

時給900円でバイトした日々が無駄になる。


膝が脱力しその場に座りこむ。

いや、ちょっと涙出てきた。

ほんと悲しい。

あ、男子が私を見てる。

とりあえず動揺して涙ぐんでるみたいな顔しとこう。






あれから1年が過ぎた。



赤羽君は全然姿を見ていない。

あと一緒にこっちにきたのは佐々木君、内田君、神谷君。




佐々木君は第一部隊のアール隊長を慕ってるみたい。

よく外で木刀を使った稽古をしている。



ああ、アール×佐々木

いや、佐々木×アール

もなかなかどうしてほうほう。



私は二次元の存在しない異世界でも楽しむ方法を見つけ出してしまった。

素晴らしいぞ私。なにかしらの特許をとりたい。




内田君は隊長会議がある時だけちらほら。

隊長でも副隊長でもないのに。

時期副隊長とかそんな感じかな。

なにをしているのかは良くわからない。

何してるか聞いたこともあるんだけど秘密みたい。

この私が話しかけてあげてるのにね。




神谷君はなにか武器工場とかそんな感じのところで働いていると思う。


転移した時最初にあった空間魔導士のムーアさん。

彼と一緒に歩いていたりすることが多い。


隊長格の武器、鎧、杖

そういったものを国から委託してそれぞれあったものを配給している。

そんな感じに見える。


神谷×ムーア

いやないな。デブじゃん二人とも。あ、ちょっと気持ち悪い。





私は第二部隊の副隊長になった。


私の固有スキル「次代魔法の極み」

これは魔法使いの通常魔法の5属性+光と闇その他もろもろの習得効率を上げる。

しかも火→炎、水→氷などそれぞれの上級や上位と呼ばれるスキルを最初から使える。


経験値ブースト系+パワーアップ

という流行りの異世界転生転移ものにはあるあるのぶっ壊れスキル。



それでも私の所の隊長には敵わないけれど。


第二部隊隊長 双刃のリーン

剣に魔法に弓、これらを高いレベルで扱える最高峰の魔法剣士。

しかもエルフ族。



最初にあったときの感想は

鼻高!

肌白!

耳とんがってる!

立ち姿美しすぎ!

体に流れる魔力めちゃキレイ!

だった。

ちょっと興奮しすぎて変な顔したかも。恥ずかしい。



そんな彼と結婚し子供を産むことになろうとは思わなかった。




先日のアナディル奪還作戦が失敗に終わり、

第一部隊精鋭60名はほぼ全滅。

隊長と副隊長が行方不明になった。




佐々木君とは学校でよりこちらでの方がよく話したし、他の転移者よりも話しやすかった。

同じ副隊長だし。

魔法の練習や相談もした。



アール隊長と佐々木くん、同時に1体の魔物にやられるなんて。

もう生存の見込みはないだろうことは分かっているけれど、

同じ転移者の仲間が死んだかもしれないというのはかなりショックだった。



次に私に与えられた仕事、それは子供を産むことだった。

それは神谷君も内田君も同じだ。

戦いから離れられるのならそれでもいいと思った。



その命令の後、すぐに第二部隊隊長 リーン隊長からお声がかかった。


やがて私はリーンの子を産んだ。


もうこの時の私は母だった。

BL本をあさっていた馬鹿な高校生の時とは違う。


私はこの子にヒカリと名付けた。

私とリーンの可愛い女の子。


この子は私の「次代魔法の極み」と

リーンの「双刃の加護」を受け継いでいた。


鼻が高くて色白で私にもリーンにも似た美形。

この子は絶対美人になるわ。

親ばかかしら。




そして5年の月日が流れた。


内田君と神谷君が任務から帰ってきたと一報が入った。


今夜2人を呼び

手料理をふるまう。

恒例の転移者会だ。

腕によりをかけてごちそうをつくる。

神谷くんの子供も見たいし。

私の第2子妊娠パーティも兼ねてね。




そして内田君が先に我が家へ。

少し遅れて神谷君の奥さんと子供が来た。


神谷君によく似たぽっちゃりメガネの男の子とうちのヒカリを挨拶させる。

すこし表情の硬い男の子だけど

ヒカリは人懐っこいいい子だからきっとすぐ仲良くなる。



一向に神谷君が現れないので

「料理の冷めないうちにはじめましょう。うちの旦那はいいのよ。」

奥さんに言われたので、先に会食を始める。

今日リーンが任務でいないのが残念だ。




子供たちはご飯を食べるとすぐに打ち解けたようで

おもちゃを取りに2階へ上がった。




するとさらに遅れて神谷君が来た。


「いやーちょっと用事でね」

汗を拭きながら登場する。

「いいのよ。上がって。奥さんとお子さん先に来てるよ」



残ったテーブルの料理をするすると食べ終わると

神谷君の奥さんが食器を洗ってくれた。



「妊婦に働かせちゃ悪いわ。座ってな」

「僕も手伝うよ」

「あんたはいいんだよ、不器用なんだから」

「俺が手伝いましょう」

「いいのよ、転移者会なんだろ?キッチンは女の戦場だよ」



テーブルに神谷君と内田君が座る。


「本当に久しぶりね。転移者会」

「ああ二人ともかわいい子供がいて落ち着いたって感じだな」

「君もこれから頑張って奥さんもらわなきゃな」

「神谷ほどの出世頭に言われると引き締まるな」


しばし談笑していると子供たちがおもちゃを持って降りてきた。


「ヒカリ、挨拶しなさい」

「ウイグルお前もだ」

「こんにちは」

2人がかわいらしくお辞儀をする。

子供ってなんてかわいいの。



2人は仲良くおもちゃで遊びだす。


神谷君が神妙な面持ちで迷ったように言う。


「なあ言いにくいんだけど、隠していても仕方がないからいうけど。」


「何怖い顔して」



「ヒカリちゃんに『赤羽』ってスキルがある。詳細は俺にも分からない」




なんで娘に?赤羽君?



困惑する私を知りもせず無邪気に遊んでいる2人をただ見ていた。



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