手繋ぎサンタ
幻中六花
第1話 戦争を知る者の幸福
「
「……」
とある田舎の平家。
綺麗に手入れされているとは言えない庭を眺めて縁側に座っている三之助は、今年91歳を迎える。
「三之助さん」
先ほどより少し声のボリュームを上げて、三之助に呼びかける妻のタツは、今年85歳。
2人とも、今となってはだんだん数が減ってきた、太平洋戦争の経験者だ。
「あぁ……ありがとう。どうも近頃、タツの声がよく聞こえないわ」
耳が遠くなった三之助は、自分が発する声も人より大きめだ。でも、田舎の平家では大声で叫んでも隣近所の迷惑になるようなことはない。テレビの音量も、遠慮なく上げている。
「私達も、もういい年ですからねぇ……」
ほうじ茶の入った湯呑みがふたつと、心ばかりの茶菓子を載せた豆皿がふたつ、並んでいる小さなおぼんを、タツは縁側に置いた。
「よっこいしょ……と」
「タツも最近は腰がよくないかい?」
「えぇ、何をするのもゆっくりでないといけません」
「私達も、もういい年だからなぁ……」
そう言って笑い合い、ほうじ茶と茶菓子を大切そうにいただく2人。
戦争の怖さを知っているので、ものは大切に、食べ物は粗末なことをせずに丁寧な暮らしを続けてきた。
戦時中は三之助が11歳、タツが5歳の頃だったため、三之助が兵役に召集されることはなかったが、三之助は
タツは女姉妹しかいなかったため、徴兵は免れたが、当時は生き延びることに必死だった。
戦争が始まった頃にはまだ5歳。いいことと悪いことの区別もつくかつかないかの子供が、戦争の中を生き抜くことは、なかなか難しかった。
しかしタツにも優しい姉や母がいた。姉や母は、妹達を守るために必死だった。
タツは、三之助から戦死した一太郎のことをよく聞かされていた。タツは、自分の家族であるかのように捉え、その度に涙を流した。三之助も、話す度に泣いた。
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