7.VS【解体屋】崩野 万壊炎
「別働隊も順調みたいだね。主要株主、二人確保だって」
スマホを操作しつつエグゼキューターが言う。先ほど確保した主要株主と併せて、合計四人。株主総会の阻止まであと二人だ。
「ただ、敵もいよいよ本気だね。暗殺部隊が出てきてる……もう何人か撤退してるみたい」
メタルヨロイは身震いした。抹殺商会の暗殺者集団――それがいつ現れてもおかしくないのだ。先ほどの二人とは違う、本場のプロ。エグゼキューターのトリッキー戦法もどこまで通用するか分からない。
「お、社長からの指令だ……「総員、ニシタマ・大ホールに突撃」だってさ。来た来た来たァ! いよいよ総力戦だよ、
『ハァ!? 総力戦!?』
「そう。暗殺部隊が出てきたってことは、主要株主の連中がいよいよ撤退を始めたってことだ。要するに鬼ごっこ――主要株主が二人逃げきる前に捕まえればこっちの勝ち。出来なきゃ、負け」
彼女はヒヒッと無邪気な笑みを浮かべた。難しい問題を前にした時の顔だ。
「そうと決まったら急がなきゃ。社長にオイシイところ全部取られちゃう」
『俺は出来れば行きたくねぇよぉ……』
ニシタマ・大ホール目掛けて二人が前進を始めた、その時――!!
「待ちなさい! よくも私の大事な発明品と上客をボロボロにしてくれたわね!」
嬌声ッ! 視線の先にはボロボロの白衣を纏った亡霊のような女が佇んでいた!
瘦せこけた頬、皮がへばりついた細い腕ッ!! スラスター付きバックパックを背負った奇妙な女が、車椅子の老人と共に立ちはだかっているのだッ!
「絶対許さないわ、エグゼキューター!
『……えっと、知り合い?』
「誰だっけ?」
「同じ中学の同級生だったでしょうがーーーッッ!!」
白衣の女は両腕を搔きむしりながら発狂したッッ!!
「
「あー、そういえば事あるごとに突っかかってくる女がそんな名前だったかも……」
『同級生の名前くらい覚えといてやれよ……!』
メタルヨロイは少しだけ
「ギィィィィィィィィィッ! アンタはいつだってそう! なんの努力もせず、才能だけで私のすべてを踏みにじっていく! 抹殺商会の正社員になったのも、寝る間を惜しんで兵器開発に取り組んだのも、全部アンタを地獄に叩き落とすため! でもそんな日々も今日で終わり! なぜかって!? 私の最高傑作が、今ここにあるからよ!」
「このお方こそ、
「…………ゼ、ゼヒュー」
『ただの死にかかってるお爺ちゃんだ……』
「その通り! いくら最強の解体屋と言えども、時の流れには勝てない! 老衰だけは手に負えない! だけど殺意は止まらない! 老いてますます盛んなアナタのお悩みを解決するのが、コレだァァァァァァァッッッッ!!」
「これが私の最終兵器ッ! 全自動殺害アシストシステム兵器、名付けて「殺人丸」ッッ!!」
ロボットは瞬く間に巨大化していき、最終的にはメタルヨロイと同等の大きさとなった! つまり三メートル六十センチの巨人が、この場に二人ッ!! 武骨なシルエットのメタルヨロイに対して、殺人丸のシルエットは流線的かつ滑らかッ! まさに対の存在を成すかの如くッッ!!
「さぁ勝負よエグゼキューターッ!! 今日こそ白黒つけてやるわーーーッッ!!」
「ゼ、ゼヒュ……う、動く……体が、動くぞォォォォォ!」
殺人丸が全身を
『ウォォォォォ勘弁してくれェェェェェェ!!』
メタルヨロイはこれを真正面から受け止めたッ!! がっぷり四つ! 力比べだ!
『エグゼキューターァァァ! 得意のハッキングでどうにかしてくれェェッッ!』
メタルヨロイの絶叫を無視し、エグゼキューターは不敵に笑うッ!
「面白いッ! アタシのメタルヨロイに挑戦するなんて身の程知らずもいいとこね! そんなに見たきゃァ格の違いって奴を見せてやるさァ!!」
『あぁーーダメだッ! 一度こうなったら絶対人の話を聞かないんだァァァ!』
エグゼキューターからの支援は望めない! 無念!
(どうする、どうする……!? 出力全開でブッ飛ばしたら、中の爺さんごと殺しかねないぞ!)
メタルヨロイは肘から突き出た十本のスチーム・バンカーに視線をやった! 高圧蒸気の噴出によって凄まじい破壊力を生む必殺技だが、使用回数は限られるうえに燃料の消費も激しい!
果たして、ここで使っていいのか……!?
「ゼヒュ、ゼヒュ、ゼヒュヒュヒュヒュ!!
殺人丸から発せられる駆動音が激しさを増すッ! 徐々に押し込まれていくメタルヨロイの巨体ッ……!
「いい調子ですよ
「ホッ? ホッホッホホッホッホォォォォォォ!?」
殺人丸の眼が紅く光り、背後のスラスターから凄まじい蒸気が噴出するッ!! すると脇からもう二本、巨大な腕が生えてきたではないか!?
「これぞ殺人丸の真骨頂――
「
殺人丸の四本の腕が、メタルヨロイの胴体をガッと押し込む! そのまま地面へ押し倒そうという心づもりだッッ!!
「できる、今の
『ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! このままじゃ倒される!!』
とうとうメタルヨロイの重心が揺らぎ、地面へと傾く! 巨体ゆえに一度倒されてしまったが最後、二度と起き上がることは出来ないだろう! その先に待つのは四本の腕で徹底的に破壊され尽くす未来のみ――!
『クソッ、やるしかねぇ! 頼むから少しは頑丈に出来ててくれよッ!!』
意を決してスチーム・バンカーの射出しようとした、その時! 老人に異変が起こった!
「アッ」
ぷつん、と糸が切れるような声。その瞬間、殺人丸の腕が四本とも力を失った! 殺人丸の巨体は、そのままゆっくりと地面へ倒れてゆく!
その場にいる誰もが茫然と成り行きを見守る中、調子はずれの電子音が響いた!
『エラーメッセージ204。搭乗者の心音停止が確認されました。アドレナリン過剰分泌によるバイタル異常と推定。ただちに最寄りの医療機関へ連絡してください。繰り返しますエラーメッセージ204……』
「しまったァァァァァァァッッ!
「ちくしょーーッ! 覚えてなさいエグゼキューター! 次こそアンタをギャフンと言わせてやるんだからーーーーッ!!」
捨て台詞を吐きながら、
「やれやれ。相変わらずツメが甘いんだから」
エグゼキューターは三日月を見上げて呟いた。どこか満足げなその笑みは、まるで後輩の成長を見守るような表情だとメタルヨロイは思ったのだった。
ともあれ――抹殺商会 筆頭株主、
株主総会の阻止まで、残り一人。
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