【勇者SIDE】頼りにしていた魔術師の少女がルイド目当てだった

 勇者ライアン及び聖女アリアは目的地となる街に着いた。ルヴィアと名付けられた街でライアンは新しいパーティーメンバーと合流する予定なのである。


「だ、誰なのよ? 新しいパーティーメンバーって。どんな人なの?」


 アリアは聞いた。


「魔術師の女の子だ。なんでもすげぇ優秀な子らしい。魔術学院の首席で卒業した天才らしいぜ。多分、頼りになると思うぜ」


 あんな付与魔術しか使えない無能はこれで余計に必要性がないだろう。魔術師の彼女がいればそれでいい。汎用性の高い魔術師がいれば戦略の幅は大きく広がり、パーティーはより完璧な状態に近づく。


 そう、ライアンは確信していた。そしてルイドの必要性がなくなったアリアは奴の事を忘れる。そして自分に好意を抱く事になるだろう。有能な自分に好意を。そう都合よく思い込んでいたのである。


「あったあった。ここの酒場で落ち合う予定なんだ。入ろうぜ」


「う、うん……」


 二人は酒場へと入っていく。


 そこには一人の少女がいた。杖を持ち、帽子とローブを着た彼女はいかにも魔術師といった風貌をしていた。まだ若そうだ。

 ライアンやアリアは15歳といったところだが。それよりも年下に見える。12~14歳程度だろう。成長途中だからか、小柄にも見えた。


「君が魔術師のメリッサか?」


 ライアンは聞いた。


「あっ! は、はい! そうですっ!」


 美しくも可愛らしい少女であった。彼女が天才魔術師だとはとても思えない。ライアンは一瞬、彼女に気が行きそうになった自分を咎める。美しい少女に気が移ろうのは男の性のようなものである。だから、ある程度仕方がないだろう。


 それにライアンとアリアは別に恋人関係という事ではない。だから浮気になるわけでもない。だが、何となく気が引けたのだ。想い人のいる前で他の女に気が行くというのが。


 だが、当のアリアはその事に対して一切気にはしていないのではあるが。


「魔術師メリッサ。俺様の勇者パーティーに入ってくれる事、心より感謝するぜ。俺様の名は勇者ライアンだ。それからこいつは聖女アリア。よろしくな」


「は、はい! よろしくお願いします! 魔術師をしているメリッサと申しますっ!」


 彼女は深々と頭を下げた。礼儀正しい子のようだ。魔術の才能に長けているにも関わらず、それを驕っていない様子だ。どこぞの勇者とは大違いだが。勇者本人は自分の傲慢さに一切気づいておらず、実力に対する適切な自信だと本気で信じ込んでいたのである。


「あの、ひとつだけ質問よろしいでしょうか?」


「ん? なんだ? 気軽に言ってくれよ。なんでも答えるぜ」


「付与魔術師【エンチャンター】のルイド様はどこにいらっしゃるのでしょうか?」


「な、なに……ルイドだと……」


「はい。ルイド様です。私はルイド様がこのパーティーにいると聞いたから入ろうと決断したんです。世界最高峰の天才付与魔術師【エンチャンター】であるルイド様から私はより多くの事を学べると思ったんです」


「な、なんだと……あ、あの付与魔術【エンチャント】しかできない無能の……」


「え? 今、なんておっしゃりました? とても信じられないような言葉が聞こえてきたような気がしますけど。多分、空耳ですよね」


「ご、ごほんっ! ルイドは今、都合がありパーティーを離脱しているところだ。しばらく帰ってこない」


「えーっ……なんですかっ。そうだったんですか。それは残念です」


 メリッサは表情を曇らせる。


(な、何がいいんだ! あんな付与魔術しかできない無能! 俺様のパーティーには一切必要ないんだ! 俺様がいたからこそ、このパーティーは今まで上手くいっていたんだぜ!)


 ライアンは激しい憤りを覚えていた。


(次のクエストで、絶対にそれを証明してやるぜ!)


 ライアンはそう意気込んで次のクエストへと向かう。


 しかし、彼の思惑は大きく外れる結果となる。彼は奈落の底まで転げ落ちてくのであった。


 そして今まで獲た金も信用も持っている物は一切合切を失っていき、ドン底まで落ちていくのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る