10.Act03:迂闊-正体バレは二度起きる-①



異世界英雄バトルナイト、このあとすぐ!





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小説を読むときは部屋を明るくして


モニターから離れてご覧ください。


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 突然だが、皆さんは【冒険者下宿制度】というものを

ご存じだろうか。

文字通り冒険家業を生業としている者に住むための部屋を

間借りさせる制度なのだが、これはあらゆる種族が分け隔て無く暮らす

トラトス王国が定めた独自の政策である。


 事の始まりはセイショウ歴1012年冬の月手前、世界中で

冒険者稼業が定着してきた頃だ。

ある日の夜、酒場で食事を終えた鍛冶屋を営むヒューマの男が

帰り道に路地裏で黄昏れているドワーフの若者を見掛けた。

人の良い鍛冶師は若者を放っておけず、どうしたのかと声を掛けた。

彼曰く、今日ここへ着いたばかりなのだが拠点となる宿が

どこも満室かつ、厩舎泊まりも危ないから身の安全は保証できないと

断られてしまい、途方に暮れていたと言う。

そんな若者を不憫に思った鍛冶師は少し考えたあと、彼に

「うちの仕事を少し手伝ってくれるなら一つ部屋を貸すよ」と

提案してきた。

それを聞いたドワーフの若者は願ったり叶ったりと、提案を

即座に受け入れ、トラトスを旅立つまでその鍛冶屋の世話になった。

この些細な個人同士のやりとりが下宿制度の原型と言われている。


 この件が後日、酒場で呑んでた鍛冶師の口から語られると

話を聞いていた者の一部が『自分も同じようなやつを見つけたら

誘ってみるか』と思うようになり、結果として職人が冒険者に

空き部屋を貸すというやりとりが増えていった。

しかしこういったものはトラブルが起こることも少なからずあった。

ある者は「冒険者に部屋を貸したら家ごと乗っ取られた」と嘆き、

またある者は「部屋を借りたはいいが、四六時中働かされて本業に

手が付けられなくなった」という。

勿論この話は王城関係者の耳にも入るようになり、事態を重く見た

当時の国王トキワ・ジ・トラトスは、審議会にてこの問題を提示。

議論を重ねた末、世界中で冒険者の身元を管理・保証するために

結成された冒険者組合に仲介業務を委託することを決め、

トラトスへ派遣された組合支部もそれを承諾した。


 これにより【冒険者下宿制度】が制定され、抜き打ちで

双方の素行調査を行うことによって悪質な冒険者や

職人・店舗は時と共に淘汰されるようになったという。






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 そして時は流れ、セイショウ歴1210年夏の月初旬。

【冒険者下宿制度】を利用した一人の少女が、一軒の酒場にて

給仕用のエプロンを身に纏ったところで今回の物語は始まる。


「・・・うん、思ったより大きさも合っていて

 いいんじゃあないか?」


「え、えへへ・・・ありがとうございます」


うんうんと腕組みをしながら少女のエプロン姿を褒める

長身の青髪男性は店長代理兼コック兼銀階級冒険者のアルフ。

そして自身の装いを褒められてはにかむブロンド髪の少女は

新米冒険者のティアラ。

彼女にとってアルフは命の恩人でもあり、憧れの存在でも

あるため、この些細な一言はとても喜ばしいものだった。


「でもデザインがちょっと古臭くないか?

 今度何処かの洋裁店に新しく発注したり・・・」


「そ、そんなことないです!私、このエプロン気に入りました!!

 この先ずっと使い続けていきますッ!!」


「お、おう・・・。ティアラちゃんがそう言うなら・・・うん」


エプロンのデザインに物申した途端、少女からの反論に気圧された

メガネを掛けたこの赤髪の優男はロンド。

彼もまた、ティアラにとって傷付いた自分を励ましてくれた

恩人であり、憧れの先輩冒険者の一人でもある。



「そ、それで!今日はまず何から始めたらいいんでしょうか!?」


 やや興奮気味にティアラが指示を求める。

目に見えてやる気があるのはとても良いことだ。


「うーん、そうだなぁ。

 とりあえず今朝はがもうじき来るから

 まずはそいつらとの顔合わせと、料理が出来るまでの話し相手に

 なってもらおうかな?」


「常連さん、ですか?」


それを聞いたティアラは目をぱちくりさせながら首を傾げた。

直ぐに思い浮かんだのは昨日の朝に訪れていたと思われる

3人の男性達だったが、この時は声しか確認できなかった。


「あーそうだ、そろそろあいつらが来る頃だな」


この様子からロンドとも顔見知りの存在だと察知出来た。

一体どんな人達なのだろうかと、ティアラの中で

期待と不安が入り交じってきた。


そう思っていると後ろから扉が開く音がし、同時に呼び鈴も鳴った。


「おっと噂をすれば」とロンドがそう言いながら出入り口を見やり、

ティアラは勢いよく、ぐるりと同じ方向へ全身を向けた。


「いらっしゃいませ!雷鳥の欠伸亭へよう・・・こ・・・そ・・・?」


元気良く接客の挨拶をするも、その声は急速に小さくなっていった。

それもそのはず。今、彼女の目の前には自分達ヒューマより遙かに

大柄で猪の頭をした獣人族ビースター、強面顔の猪頭人オークがそこにいたのだ。



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