03.Act01:邂逅-英雄再動-③
赤と黒の騎士が目の前から去り、少女の周辺は静まりかえった。
自分を襲った暴漢達は痛みに耐えきれずに誰もが気を失っていた。
「---・・・い---おーーい!誰かいるのかーーー?」
少女が呆然と立ち尽くしていると森の奥から小さな明かりが見えてきた。
続けて何者かの声が聞こえ、少女はハッとなった。声の質からして男性だろうか。
暴漢達に襲われたばかりという事もあり、少女はどう対応するか迷っていた。
そうしているうちに声の主がゆっくりと姿を現してきた。
現れたのは二人組の若い男性だった。
手前にいるカンテラを持っている片方は、ボサボサ気味の赤髪をした
メガネを掛けた男性。
後ろに付いてるもう一人は手前より一回り身長の高く、
ガッシリとした体型をした青髪の男性。
どちらも少女よりも年上のように見えた。
「おーいたいた。
何か騒がしい声が聞こえた様だから慌てて来たんだけど・・・」
「えっと、あの、その・・・」
赤髪の男性が気さくに話し掛けてき、少女は戸惑いを隠せずにいた。
「ロンド、まずはあれを」
「おっとそうだった。お嬢さん、僕らはこの通り怪しい者じゃあないよ」
後ろにいた男性に注意され、ロンドと呼ばれた男性は
自身の首元から紐につるされた札を少女に見せてきた。
もう一人も同じ仕草をする。
二人が見せた札はどちらも銀製で、小さく文字と紋章が彫られていた。
「申し遅れたね、僕はロンド。冒険者組合トラトス支部所属の錬金術師だ」
「同じくアルフ、剣使いをしている」
そう言って簡潔に自己紹介をする二人。
それを目の当たりにした少女は慌てて自分もと、相手と同じように
首につるされた札を見せて自己紹介を始める。
「し、失礼しました!わ、私はティアラっていいます!
今日からトラトスの冒険者組合に加入した治癒士見習いです!!」
どうかよろしくお願いしますと大きくお辞儀をする少女、改めティアラ。
彼女の見せた札は鉄製、それは冒険者組合所属の証であり
自分は新人冒険者だと証明するものでもあった。
「あはは、そんな畏まらなくてもいいよ。
それにしても・・・最近の新人ってスゴイんだねぇー・・・」
そう言ってティアラの周辺を、引き気味の表情で見渡すロンド。
視線の先には地面に叩き伏せられた複数の暴漢たち。
「え?・・・あ、違うんです!違うんです!!
これにはワケが----」
ロンドが考えていることを察知し、ティアラは慌てて弁明を始める。
説明を受けながらロンドとアルフは荷物から荒縄を取り出し、
暴漢たちを一人ずつ縛り上げていった。
「---そうか、
「はい、それで全員倒した後すぐにお二人が来た方向へ
飛んで行ってしまって・・・」
「えぇ?こっちに来るまで僕たち誰ともすれ違ってないよ?
だよなぁアルフ」
「・・・あぁ」
「そう、ですか・・・」
暴漢たちの捕縄が終える頃、ティアラによる経緯説明も終わった。
赤と黒の騎士が消えた方向から丁度ロンドたちが現れたことから
ティアラはもしやと思ったが、二人は彼女の期待していた答えを
持ってはいなかった。
「さて、捕縄も終わったことだしこれからどうする?」
「夜も遅いが、このまま街まで戻ろう。
野宿している最中に縄抜けをされて襲われる可能性もある」
「だよなぁ、他に仲間がいる可能性もあるし。
君も一緒に来るかい?」
この後の行動について相談した二人は街へ戻ることを決め、
それにティアラを誘う。
ティアラ自身も今のままでは心細かったため、
身を明かした二人の同行は正に渡りに船だった。
互いに同意を得た三人は、明かりを持ったロンドを先頭に
拠点となる街へと向かう。
移動中はロンドとティアラで身の上話をし、アルフが捕縄した暴漢たちを
後ろ目で監視しながら引きずっている。
この中で一番体格が良いとは言え、一人で男7人を纏めて牽引する様は
流石としか言いようがなかった。
しばらく歩き続け、一行はようやく無事に森を抜け出すことが出来た。
三人の視線の先には見慣れた石造りの大きな壁、そして
僅かな明かりが灯された城門。
あそここそが、三人が所属している冒険者組合がある城下町トラトスである。
一息つく間もなく、三人はそのまま城門へ向かった。
そして見張り役の衛兵たちにそれぞれの札を見せて身分証明を行い、
通行の許可を得る。
「やぁお二人ともお帰りなさい。帰ってくるのは明日のはずでは?」
「あぁ、実は野宿する直前でちょっと人助けをしてね?」
迎えの挨拶をしてきた衛兵に答えながら、ロンドは後ろにいるティアラと
暴漢たちを見やって事の経緯を説明した。
説明を受けた衛兵たちは直ちに身柄引き受けと連行の手続きを行い、
三人へそれぞれ硬貨の入った袋を手渡してきた。
この国では治安維持のため、犯罪者を拘束・討伐した者には
報奨金が支払われる仕組みになっている。
ティアラは犯罪に巻き込まれた側だと初めは受け取りを断るが、
「冒険者たる者、出された物は呪い以外何でも貰っとけ」という
周りからの勧めにより受け取ることとなった。
その袋は今日請け負った依頼の報酬よりも明らかに
多い額が入っている重さだった。
町に入った後、ティアラは複雑な気持ちで二人の後を付いて歩いている。
実際に暴漢たちを撃破したのは別にいるため、
受け取る事に後ろめたさを感じていた。
ロンド曰く、
「あいつらをあのまま放置したら必ず再起されてまた誰かが襲われる。
だったら自分達の手柄として連れて行ったほうが世のためだよ」とのこと。
理解はしたが納得出来ない、そんな思いのまま歩いていると
前を歩いていたロンドとアルフが足を止め、ティアラも立ち止まった。
二人の前には明かりの付いていない一件の酒場。
看板には『雷鳥の欠伸亭』と書かれている。
ティアラが立ち止まったことを確認すると、アルフが入り口まで歩き
懐から一つの鍵を取り出すと扉に掛かっている錠前を開錠した。
「さ、入って」
短い言葉ながらもどこか優しさを感じる言葉をティアラに投げかけて
アルフは酒場の奥へと入ってい、ロンドもそれに続いた。
ティアラは戸惑いながらも彼らに害意がないことを感じ、後へ続いていく。
ロンドとアルフが二人がかりで店内に明かりと灯し、ティアラに着席を促す。
酒場の内部は決して広くはなく、カウンターに六人分、二つのテーブルに
それぞれ二人分のイスが置かれていた。
カウンターの内側には調理用の設備が備わっており、後ろの棚には
多くの酒瓶がいくつも並べられている。
ティアラが店の内部を見渡していると、アルフがカウンターへ入り
鍋が乗っている釜戸に火を付けた。
「あの、ここって一体・・・」
ティアラが質問をしようとするとロンドが隣の席に着いて相手をする。
「あぁ、ここはこいつが住み込みをやってる酒場だよ」
聞けば冒険者稼業の傍ら、アルフはこの『雷鳥の欠伸亭』で
料理人として働いているらしく、ここで働くことを条件に
居住をさせてもらっているのだそう。
当のオーナーはというと、良いお酒を仕入れるために
世界中を駆け回っているそうで、現在もその最中で留守にしているのだとか。
今居る酒場の話をしているうちに、ティアラが負っていた心の傷は
少しずつ癒やされていき、ティアラ自身も自然と笑顔を見せるようになってきた。
「はい、お待たせ」
アルフの一言と共に、ティアラの前へ木製の小さなボウルが置かれた。
中には一口大に切られた赤色の根菜や芋などが入った白い煮込み料理が
盛りつけられていて、その料理から漂う優しい香りが彼女の鼻腔を刺激する。
突然暖かい食事を振る舞われ、ティアラは再び戸惑った。
街まで同行してもらうだけに止まらず、報奨金配分にも加えられ、
更に食事の提供まで、ここまで至れり尽くせりだと逆に申し訳なくなってしまう。
ティアラの戸惑いをよそに、隣にいたロンドが優しく話し掛ける。
「遠慮しなくても良いんだよ。こっちへ戻ってくるまで
ずっと何も食べてなかったんだろ?」
確かに薬草の採集をしていた途中に昼食の弁当を食べて以来、
何かを口にする機会は全くなかった。
「で、でも私、お二人にここまでしてもらってるのに何も・・・」
今までの待遇の対価となるような行動は何一つしていない事を自覚している
ティアラ。
それでもロンドは笑顔のまま話し続ける。
「気にしないで食べてやってくれよ。
これも全部、あいつの性分なんだからさ」
そう言って視線をカウンター内にいるアルフへ向けた。
「あいつの両親がこう言ってたそうだ。
もし困っている人に出会ったら、一歩進めるだけの手助けをしてあげなさい。
もし極限まで苦しんでいる人と出会ったら、その場から立ち上がれるまで
側に居て支えてあげなさいってね。
それを躊躇いなく実行できるほど、あいつは度が過ぎる程のお人好しなんだよ」
苦笑いしながらロンドは頬杖をつきながら語った。
「こうまでしないと気が済まないほど、あいつは君を放っておけないんだ。
だからさ、今はあいつからの好意に甘えちゃくれないかい?」
勿論その料理の味は保証するよと、一言加えて料理を指差すロンド。
そう促されるまま、ティアラは一緒に出された匙を持って料理をすくい、
そのまま口へと運んだ。
口の中にまろやかな甘さと野菜の旨味が広がり、熱を帯びた具材とスープが
身体の中から自分を労るように温めていく。
匙を進めていくうちに、彼女の目から涙が溢れてきた。
自分は今生きている。無事に街へ戻ってこられたんだと、
食事をしながらその喜びを噛みしめていた。
食事を終えて間もなく、ティアラは突然の眠気に襲われた。
うとうとしているとカウンターからアルフが出てきて、彼女を優しく抱き上げる。
そのまま店の奥にある階段を上がり、二階の一室へと入っていった。
そしてそこにあるベッドへティアラを寝かせ、毛布を一枚掛けてから
静かにその部屋を後にした。
「・・・あの子の様子は?」
「今眠ったよ。俺が抱えているのに気付かないほど
疲れ果ててたんだろうな。」
二階から戻ると、食事を終えたロンドが保護した少女の様子を尋ねる。
質問に答えたアルフは使い終わった食器二組を受け取り、カウンター内で
それらを洗い始めた。
「しかし間に合ったようで良かったよ。
我らが
「よしてくれ。俺にはもうそんな資格は・・・」
目の前の男に期待の眼差しを向けるロンド。
しかしアルフはそれには応えられないと表情を曇らせる。
「・・・まだ、整理が着かないか?」
「今回のは緊急手段だ。そうしないとあの子は助けられなかった」
先ほどとは打って変わって、ロンドの表情も神妙になり
口調もそれに合ったものになる。
「何もそこまで意気地にならなくてもいいだろ?もう
あの時のことはもう忘れろとは言わないが、君に落ち度は---」
「それでも!それでも俺はもうあの頃には・・・ッ!」
ロンドに視線を向けないまま言葉を遮るアルフ。
彼の変わらぬ意思を察したロンドは諦めたかのようにふーっと溜息をつき、
頭を掻きながら席を立って店を出ようとした。
そして出入り口前で立ち止まり、振り返らないまま口を開いた。
「無理強いはしないよ、けどこれだけは覚えておいてくれ。
僕らはずっと・・・君の再起を待っている」
そう言い残して、ロンドは酒場を後にした。
静まりかえった酒場で一人、アルフは食器洗いで濡れた手をタオルで拭い、
懐から『
それは半透明状の大きな宝石が埋め込まれた一つのベルトバックルだった。
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