【長歌】いのち

奇蹟たる 五体満足に生まれたる 吾が肉軆の たとふるならば 眼のなくば 最愛のひとの 亡骸を みることもなく 泣くこともなく 耳なくば 寵愛したる 戀人の 訣別(わか)れの言葉を 聴くこともなく 愛の言葉を 識ることもなく 口なくば 唯一無二の親友を 罵詈讒謗抔するよしもなく 叱咤激励さへあたはざり 脳髄なくば 分裂病の狂癲で 自殺未遂をすることもなく この長歌をば 詠むこゝろもなく たとふるならば 腕なくば 兵燹のなか ひとをばころす こともなければ 脚なくば 人生の羈旅の 道なかば ひとをおいぬく こともなく 陰囊なくば 贋物の愛の名のもとに 陵辱すること あたはざり たとふるならば このいのちさへ 生まれざりしば 一切皆苦の 浮世にて いかなる罪も いかなる罰も ダンテの『地獄篇』のごと いかなる業火にも 焼かれざる 焼かれざるとは いふなれど 刹那のLIFEとひきかへに 永遠のLOVEも 識らずをるらむ 識らずをるらむ

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