第10話 密室⑤
箱の中を探る平。
中から肆の鍵とボタン、折りたたまれた紙片が出てくる。
平 「もうお馴染みのセットだな」
根間「紙、見せて」
紙を根間に渡す平。
紙には『2010年7月10日』とだけ書かれている。
根間「今日の日付……じゃなかった。去年の日付か」
吉良「一年前って、何かありました?」
記憶を辿る一同。
平 「少なくとも目立った事件なんかは無かったと思うが……」
麻生「皆さんの身の回りではどうです?変わったこととか」
根間「……うーん期末テスト期間だったかなあ」
吉良「私もテスト期間だったと思いますけど、細かいことは……」
矢内「僕もとりたててこれといったことは無いと思う」
平 「……時間がもったいない。皆。何か思い出したら言ってくれ。次に行こう」
矢内「鍵を貸して下さい。次は僕です」
鍵を受け取る矢内。肆の箱をあける。
中から折りたたまれた紙、ナイフ、包帯、消毒薬が出てくる。
吉良「今度は何?」
紙を開く矢内。『肆ノ犠牲 矢内修一 才ヲ捧ゲヨ』と書かれている。
矢内「才を捧げよ……」
平 「才……才能ってことか?」
根間「才能を捧げろって、それでナイフ?どう使うの?」
麻生「包帯や消毒液もありますけど……」
矢内「……僕には分かります。犯人が何を言いたいのか」
吉良「どういうことなんですか?」
矢内「僕、こうみえてピアニストをやってるんです。だから……」
平 「まさか……」
一同、犯人の意図を察する。
矢内「このナイフで手を傷つけろってことでしょうね。ピアノが弾けなくなるように」
全員「……」
矢内「ご丁寧にアフターケアまでご用意頂いてるとはね……」
吉良「あの、矢内さん……」
矢内「大丈夫です。やりますよ。八億寄付した人も居るんですから。どう見積もっても私の手に八億の価値はないですからね」
平 「ちょっと皮肉がキツすぎやしませんか?」
矢内「はは、すいません。でも、こうでも思わないと、気持ちが鈍りそうでして。これでもね、自分の仕事には誇りを持ってる方なので」
他のメンバーが見守る中、箱の上に左手を置いて、右手にナイフを握る矢内。
しかし、中々実行できない。脂汗が滲み、腕で拭う矢内。やがて5分が経過する。
平 「矢内さん、もう……」
矢内「いきます!!」
ナイフを振り上げ、気合とともに左手の甲に振り下ろす矢内。
矢内「ぐううう!!」
しかし、鍵の開く音がしない。
根間「鍵の音がしない!?」
矢内「まだ、これじゃ足りないっていうのか!!くそッ!」
再びナイフ振り上げ、振り下ろす矢内。2度、そして3度。その時、鍵の音がする。
しかし止まらない矢内。4度目を振り下ろそうとしたところで、麻生が鎖を引っ張る。腕の軌道がずれてナイフは手に刺さらずに済む。
麻生「矢内さん!もう大丈夫です!鍵が開いた音がしました!」
矢内「あ、ああ……」
ナイフを持つ手が震える矢内。ナイフを捨てようとするが、手が開かない。
隣にいる平が、指を広げてナイフを取り上げる。
平 「早く包帯を!まずは止血しないと!」
突然感情が溢れて泣き出す矢内。応急処置を淡々と続ける平。
爆弾のカウントダウンは刻一刻と進んでいる。
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