第8話 密室④
密室。弐の箱から折りたたまれた紙と参の鍵とボタンを取り出す根間。
根間「またボタンが出てきたけど……」
平 「後回しだ。そっちの紙は?」
紙を開くと英数字が5行にわたって書かれている。
kirarasann
nemagon212
flatsei5
pianoyana
greenasoh
根間「これ……俺のアカウントだ」
矢内「何が書いてあるの?」
根間「ほら、これ。この2行目のやつ、俺のツイッターのアカウントなんだよ」
矢内「僕のもある」
平 「これ、ひょっとして全部みんなのアカウントなのか?」
頷く一同。
麻生「さっきのマザーグースといいこれといい、何を意味してるんでしょうね?」
根間「わかんないよ」
平 「いや、さっきに比べたらかなり分かりやすいじゃないか?」
根間「どういうこと?」
平 「私たちの間には面識はない。犯人はなぜ私達を選んだのか?その理由におそらくツイッターが関係してるに違いない」
吉良「ということは、さっきのマザーグースもそのヒントの一つと見たほうがよさそうですね」
平 「多分、そうなんだろうが……」
麻生「皆さん、お互いのアカウントに見覚えがありますか?」
記憶を探る一同。
根間「無いみたいだね。まー俺とかフォローしてる人多いし、つぶやき少ない人だったら分かんないかも。そもそもフォローもしてないかもしんないし」
矢内「やっぱり、まだこれだけじゃヒントが少ないのかもしれない」
平 「時間もなくなってきてる。とりあえず5人目まで進めて、ヒントが出揃ってから考えてもいいんじゃないか?」
吉良「確かに、そうかもしれませんね」
平 「鍵を貸してくれ。次は俺だ」
根間から鍵を受け取る平。
平 「……緊張するな」
箱を開ける平。
中には折りたたまれた紙と封筒が入っていた。
平 「今度は封筒か」
紙を開く平。『参ノ犠牲 平誠吾 財ヲ捧ゲヨ』
平 「財を捧げよ、だそうだ」
根間「お金のことかな」
平 「封を開けるぞ」
封筒の中から出てきたのは小切手。
平 「これは……」
吉良「どうしたんですか?」
平 「私の会社の小切手だ。そうか、俺が寝てる間に……」
根間「私の会社って……もしかして社長さん?」
平 「まあな」
根間「へぇ~……」
麻生「小切手でお金を払えと言ってるんですか?」
平 「そうみたいだが、何も書いてないな……」
封筒の中を覗く平。
平 「ああ、すまん。もう一枚紙が入ってる」
取り出して紙を見る平。
平 「冗談だろ……ふざけるな!!」
矢内「何が書いてあったんですか?」
平 「小切手に書く金額と渡し先だよ」
根間「いくらよこせって言ってきてるの?」
平 「八億だ」
驚く一同
矢内「犯人の本当の目的ってやっぱりお金なんでしょうか」
平 「いや、違う。渡し先には日本赤十字を指定してきてる。つまり、寄付するってことだろう……」
根間「寄付!?」
平 「八億なんて払ったら事業の運転資金も無くなる。……終わりだよ。うちの会社も、従業員も」
静まり返る一同。
平 「私が、私の会社が軌道に乗るまでどれだけ苦労したと思ってるんだ?それを、私の手で、自ら潰せというのか!?クソが!!」
吉良「でも平さん、命さえあればきっとまた……」
平 「黙れ!!アンタに何が分かるっていうんだ!八億だぞ!あんたの不倫に八億の価値があるのか?ああ?こいつの進路はどうだ?金っていうのはそう簡単に湧いてくるもんじゃないんだ!」
矢内「平さん言い過ぎですよ!」
吉良「言い過ぎ?私が今の会社を立ち上げて、軌道に載せるまでにどんな事があったか知ってるのか?私はこんなことをするために寝る間を惜しんで働いたわけでも、クソみたいな奴に頭を下げてきた訳じゃない!」
根間「……知らねえよ」
平 「何だと?」
根間「知らねえよ!あんたがどんな苦労したとか、どんな想いでやってきたとか!関係ねえんだよ!死んだら全部終わりだろうが!」
平 「お前は私の苦労を知らないからそんなことが言えるんだ!大体な――」
矢内「いい加減にしろ!!」
矢内の剣幕に驚く平。
矢内「平さん、根間くんや吉良さんはもう大切なものを犠牲にしているんです。こんな状況でなければ絶対に犠牲にしたくないものです。その価値に大きいも小さいもないんですよ。我々が助かるためという意味でなら犠牲の価値は同じです。あなただってそれは分かっているはずだ」
やがて、落ち着きを取り戻す平。
平 「……すまない。確かに君の言うとおりだ。ここで暴れたところで会社も従業員も助かるわけじゃない。君たちにも謝る。申し訳なかった」
そういって、根間と吉良に頭を下げる平。
平 「余計な時間をかけさせてしまったな」
大きくため息を付き、小切手に金額と渡し先を書き込む平。
平 「書いたぞ」
矢内「……なんか、すいません」
平 「いや、君のお陰で我に返ったよ。あの世に金は持って行けないからな」
根間「でも、それどうするんだろ?犯人が取りに来るのかな?」
その瞬間、部屋の照明が暗くなり麻生の後ろの壁にスポットライトが当たる。
根間「なんだこれ?」
麻生「……ここ、隙間がありますよ」
一同、麻生の言った場所を見る。
吉良「あ、ほんとだ」
平 「そこに小切手を差し込めってことか?」
麻生「多分、そうでしょう」
平 「……分かった。頼む」
麻生に小切手を渡す平。小切手を眺めた後、隙間に差し込む麻生。
麻生「じゃあ、入れますよ」
平が頷く。麻生が手を話すと、小切手が隙間に吸い込まれていく。
どこかで鍵が開く音がする。
ため息をつきながら、へたり込む平。
平 「なんだが、どっと疲れたよ」
爆弾のカウントダウンは刻一刻と進んでいる。
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