第5話 応接室③
警察の応接室。
新堂「……ひとつよろしいですか?」
田富「なんでしょうか?」
新堂「田富さん、あなたは最初にこれを『犯人の遺書、あるいは犯行声明』だとおっしゃった」
田富「ええ」
新堂「遺書というからには犯人はすでに死んでいると考えているわけですね?つまりあの事件は殺人と言うよりも、無理心中のようなものだったと」
田富「犯人が死んでいるとすれば、そうですね」
新堂「違うのですか?」
田富「……その文書の始めは、確かに遺書という体裁をとって書き出されています。
ですが、実際そのほとんどは小説と言っていいものです。犯人が五人の内の誰なのかも最後まで分からないようになっている」
少し先のページを読む新堂。
新堂「……確かに、そのようですね」
田富「例えば犯人があの事件ですでに死んでいて、生前、つまり事件より前にそれが書かれたのだとすると、それは犯行計画書ということになりますよね」
新堂「ええ」
田富「でもそれだと辻褄が合わないことがいくつかあるんです」
新堂「……例えば?」
首を触りながら、記憶を探る田富。
田富「例えば……そう。吉良小百合についての部分。彼女が事件当時交際していた
五島という大学教授がいるんですが」
新堂「確か、不倫関係でしたか。爆発事件当日に吉良小百合は五島の妻に連絡をとって関係を告白していますね。集団自殺説の根拠の一つにもなってますが」
田富「文書によると、それは犯人の指示によって行われたことになっています」
新堂「なるほど……それで?」
田富「その中で吉良小百合と五島の妻の会話が記されているんですが、五島の妻に取材をして確認したところ、実際に交わされた会話とほぼ一言一句間違いないようなんです」
新堂「……つまり、これは事件前に書かれた犯行計画書ではなく、事件後に書かれたルポタージュだと」
田富「もちろんただの偶然かもしれません。会話の内容も犯人だったら想像の範囲内です。ですが、その可能性は否定出来ませんね」
田富の言葉を受けて考えこむ新堂。
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