履帯の跡を異世界の地に 異世界の空に魔術の光を

@unyuclear

第1話 異世界の地



 柔らかな草の上で、体を起こす。長い間寝ていたらしく、体が痛んでいる。自分はよろよろと立ち上がる。

 見知らぬ平原が、広がっている。今まで見てきた日本の風景と、かけ離れた。


「どういう事だ?何処だよここ?」


 独り言を言いながら、辺りをキョロキョロと見回す。

 遠くには森。どうやら広葉樹のようで、寒い地域では無さそうだ。


「一旦状況を整理しよう…いや、何処から考えればいいんだ?」


 昨日は何をしていたんだ。ここで起きる前に何をしていた?全く思い出せない。

 …それ所の話ではない。自分の名前が思い出せない。自分自身に関する記憶が1つも思い出せない!


「どうしよう…本当にどうしようか…」


 まさか、ここは自分の知る地球では無いのでは?

 嫌な予感が、冷や汗と共に体を走る。現実味が無い話ではあるが、そもそも、知らぬ間に平原に取り残されている時点で、十分おかしな状況だ。


 どうにか、この場所を示す情報が無いかと、もう一度辺りをじっくりと観察する。

 お願いだから、日本であってくれ。そうじゃなくても、せめて、英語圏で治安の良い場所であってくれ。

 そう願っていたが、足元に何か硬い物を見つける。それを拾い上げると、驚きで声を上げてしまった。


「ライフル!?」


 それは、古臭い銃だった。西部劇で見るような、レバーアクションと言う方式の大きな銃、それが足元に落ちていたのだ。

 これで、治安が悪い事が確定した。銃が足元に落ちている平原が、日本にあるだろうか?

 記憶喪失を起こした男の足元に丁度銃が落ちている、そんな状況が現実に有り得るのか?

 有り得る訳が無い。


「ウィンチェスターライフル…だっけ?ちょっと形は違うようだけど、その系列だろうな」


 ジロジロと、ライフルを眺める。状態はいいが、開拓時代の銃なので古臭い。

 弾を込める場所を発見して、覗き込む。ギッチリと弾が詰め込まれている。撃ってくださいと言わんばかりに。


「…いっその事、撃ってやろうかな。もしかしたら、銃声で誰か来てくれるかもしれないし!」


 トリガーに指をかける。

 映画やアニメで見たように、肩にしっかりと当てて、誰も居ないことを確認してから、トリガーを引く。

 反動を覚悟して目を瞑っていたが、カチリ、と言う軽い音がしただけで、何も起こらない。

 壊れているのかと思ったが、よく観察してみると、弾丸がチャンバーに入っていない。これでは撃鉄は空を叩くだけで、弾丸は発射されない。

 自分は一息ついて、手元のレバーを起こす。


「銃に詳しい訳じゃ無いからなー。ゲームやってなければ、放り出してた所だったよ」


 独り言で気を紛らわせる。孤独という物は何もしていないと、余計に心を蝕む。

 レバーを戻すと、ガチャリと言う音と共に、弾薬がチャンバーに送り込まれた。自分はもう一度銃を構え直して、勢いよくトリガーを引く。

 パァン、と辺りに銃声が鳴り響いた。自分は反動で少しよろめいたが、弾丸は問題なく飛んで行った。

 自分は、辺りをまた見渡すが、風の音以外に何の音もしない。


 諦めて、歩き出すことにした。

 この銃があれば、野犬くらいならば、追い返す事も出来るだろう。

 森を抜ければ人が住んでいるかもしれない。獣を狩って、食料を手に入れるのもありかもしれない。


 余分な弾を確認するために、弾倉を押してみる。

 しかし、弾はギチギチに詰まっている。本当なら先程の1発で空きがある筈なのだが。

 自分はもう一度レバーを起こして排莢する。空になった薬莢が飛び上がって、足元にぽとりと落ちた。そして、レバーを戻して、次弾をチャンバーに送り込む。

 今度は木に向かって発射する。

 今度はよろけなかった。木に穴が空いたのを確認して、弾倉を確認する。

 予想通り、弾は減っていない。


「マジか…魔法の銃…じゃねーのか、これ?つまり…ここは…」


 頭を振る。信じたくない。転生しただなんて信じるのは、理性が絶対許さない。

 だが…転生物でよくある展開、異世界に放り出された少年、見知らぬ平原に一人きり。

 可能性としては、有り得るかもしれない。信じたくは無いが。


「なら、チート級の能力を持っているとか!」


 息を吸い込んで、体に力を込める。


 しかし、何も起こらなかった。


 やはり、この状況で放り出されている時点で、そんな優しい物はなかったか。


「もしくは、モンスターに襲われて、女の子に助けられる!」


 銃を構えて辺りを見回す。


 何もいない。


 外敵も、味方も、動物すら、どこにも見当たらない。虫は足元を1匹飛んでいるのは見えたが、関係ない。


「もしくはゲームチックなステータス!」


 自分は空に向かって、手を翳す。


 そこには、明るい空が広がっているだけだ。


 そこで悲しくなって、ため息をついた。この絶望的な状況を打開するために、一縷の望みをかけていたが、無駄な時間を過ごしただけだ。


「 クソったれ!銃一丁渡されて何をしろってんだよ!」


 悪態をつきながら、森の方へと歩いていく。どうせ誰も助けてくれないのなら、自分で何とかするしかない。

 とりあえず人を探して、話を聞こう。もし、悪人に出会ったら、この銃で追い返せばいい。


「もし、誰かに転生させられていたなら、転生させた奴の眉間に、弾丸叩き込んでやる!」


 やけくそになって叫びながら、森の中へ入っていった。

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