アフターコロナの経済学入門・真空空手形編①マスクが売れてどうしてベルトが売れないのか
水原麻以
そうか!と腑に落ちる経済学。マスクとベルト
「ベルトが、ベルトが一本も売れてないんです」
頭を抱えて天を仰ぐのは鍋屋の後期高齢者だ。京葉線青海駅の高架下に店を構えて40年。石油危機やリーマンショックなど数々の不況を乗り越えて吊るし鍋の必須アイテム・ベルトの販売一筋に生きてきた。沈みもあれば浮きもある。最盛期はやはりバブル景気だろう。鰻のようにベルトが売れたという。「多い日は一日に餃子百万匹ほど売れたんですよ。ローマが秒速で成る勢いです!」
店主はカセット茶釜をのぞき込むように言う。なるほど構えは日経平均株価だ。こう見えても足腰を鉄下駄で鍛えたスポコン世代らしく体格はがっしりしている。
ひとたび外反母趾がうなれば、先物相場のローソク足も裸足で逃げ出すだろう。
「どうしてそんなに売れたんだ?」
バブル時代を親の武勇伝でしかしらない俺にはさっぱりだ。アルバイト学生が新宿歌舞伎町で一本十万円のロコンド酒を新入社員歓迎会でふるまわれたあげく研修旅行はハワイ三万六千周だったという化け物じみた話は枚挙にいとまがない。余りに多すぎてメルカリに転売するほどだ。
「24時間戦えますかってやつですよ」
なるほど当時のリーマンはベルトにむち打って世界を巡っていた。敵は香港ニンジャみたいな商談相手だ。伸縮自在の如意棒でヌンチャクするごとく交渉を進める。これを絡めとるためベルトが何本あっても足りないというわけだ。
「それが今はどうです」
店主は釣銭箱を穴が開くほど見つめた。十円未満の硬貨が牡丹雪している。
こりゃいくらなんでも日曜日の某国民的アニメエンディングテーマ終了直後に等しい。
ここはリニア新幹線を稚内まで通してやろうじゃないか。
俺は彼の頭上に百万カンテラの白熱電球を灯してやった。
そっと耳元から怒涛のホーキング情報パラドクスを流し込んでやる。
「おおっ!」
ローマ広場の真実の口めいた瞼がグランドキャニオンした、
俺は山上の垂訓してやったのだ。これは商売のロゼッタ中のロゼッタであるが、ただただ苦労だけを賽の河原してきた彼にとってはアルミ製の俄かモノリスだったようだ。
俺はこう教えてやったのだ。
マスクとベルトはセットだ。休業要請と補償が奥歯に付着したアーモンドヌガーであるように。
あるいは大阪南の某豚饅頭屋の差し入れ。有無は死活問題だ。
気を観て森を観ぬ蝶はインド洋の台風を貰い損じる。
「おおおおおおおお!」
その日からベルト屋の財務諸表は超新星のニュートリノ再加熱過程となった。
もっとわかりやすくいえば、初期宇宙のインフレーション的小学校木造校舎の油引き廊下WITHバナナの皮オンスライディング土下座だ。
一月ほどしてクール便で越後屋が届いた。飯テロの差出人はもちろん青海のベルト鍋商人。
越後屋の番頭は観賞用として裏の神社で飼うとして、本体が強烈だった。
菓子折りを開けると小判に最中の皮がトッピングしてある。本末盆回りとはこのことだ。
どんだけ儲けてるんだ、あのジジイ。
血圧があがりすぎて断腸の緒が溶けた。俺は物見遊山を厳寒期に完全攻略する心づもりで青海駅に出かけた。
改札を出る前から世界に弥勒菩薩が降臨している。オーラのワット数どんだけだ。
耐え切れず俺は電話でジジイに遮光器土偶するよう頼んだ。
すると景色が風前の灯の直火炊きになった。
「ずいぶん、羽振りがよさそうじゃないか」
俺は彼の店先が出エジプト記している様を目の当たりにして心停止した。
客はみな死海の渡し守だ。そのぽっかりと空いた心の隙間でマスク警察と香港ニンジャが殺しあっている。
どちらも顔にマスク、腰にベルトを巻いて殴る蹴るは序の口。
必殺技のキックを撃ち合えばドカンドカンとセメント袋の土煙が弾ける。
それでも両者凹面鏡のごとく無傷だ。
ミサイルにビームに別れた女の未練に食い物の恨みまで雨あられと飛び交う始末。
マスク警察はベルトを用いてステイ現世界転生したのだ。彼らが反マスクに言い負かされる理由がそろそろおわかりいただけただろうか。
パンチ力が足らなかったのだ。脚力もだ。
マスクとベルトはセットだ
ジジイ曰く、ベルトは竜巻のごとく売れているという。
これはなかなか面白い。経済波及効果は2兆円/Kw時ぐらいあるんじゃないか。
なお、このノウハウはGW自粛期間中の財テク教育用に無償公開する。
【ちいさなよいこは、ほごしゃといっしょによんでね♪】
財政投融資はお子様の夢を育み健全な経済観念を養う情操教育としてバーレーン、カタール、アブハジア、敦煌、アンティグア・バーブーダで試験的に導入されています。この機会にお子様と悪銭身に付かずを私財投げうって学んでみてはいかがでしょうか。なお、儲かる儲からないはお父様お母さまとお子様次第です
エンドロール。
そしてボーナスシーン。
看守「刑期はたっぷりある。真っ当なあきんどとは何か。ゼロから考え直…」
どこからともなく無人のバイクが突入した。前輪が看守の脊椎を粉砕した。
「店長ぉ~今度は俺もセットで売ってくださいよぉ~」
ジジイ「バ、バイクがしゃべった!」
(了)
アフターコロナの経済学入門・真空空手形編①マスクが売れてどうしてベルトが売れないのか 水原麻以 @maimizuhara
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