ショートショート1グランプリ
「これから1回戦なんでしょ」
私はメイド喫茶のバイトの休憩中、兄・幸一に電話をかけていた。
「ああ、これからショートショート1グランプリの1回戦なんだよ。400字以内の作品を武器に、リング上で戦うやつ。このためにオレ、たくさん自信のある作品を書いてきたからさ」
「で、それってどうやったら勝ちなの?」
「3人の審査員の心に残ったらだよ」
「それにしてもお兄ちゃんって、本当にスゴいよね。高校3年生でもうその大会に出られちゃうんだもん」
「ああ、出るだけで満足はしてないさ。心に残る作品を発表して、相手をギャフンと言わせてやる」
「じゃあ頑張ってね」
「わかった」
お兄ちゃんは自信満々の一言を残して電話を切った。私もお兄ちゃんの結果を知るのが楽しみだけど、その前に仕事に戻って、お客さんの心に残らなければ……。
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仕事終わりに、私はオフにしていたスマホをつけた。するとなぜか新たな通話履歴として病院からのものが5件あった。
もしかして私の親に何かあったのかと思い、おそるおそる病院に折り返しの連絡をしてみる。
「はいこちら、清田会(きよたかい)病院です」
「あの、私のスマホに5件ぐらい連絡が来ていたんですが」
「もしかして、幸一くんの妹さんですか?」
電話の向こうから聞こえる声は、やたらシリアスだった。
「お兄さんですけど、ショートショート1大会でかなり負傷しまして。顔面に3カ所の打撲に加え、アゴや肋骨2本の骨折、ヒザにも捻挫がありました。2カ月近くは入院が必要です」
小説を発表するだけでこんなになるなんて、どんな大会なんだろうか。私はあまりに怖くなって、スマホをアスファルトの道に落としてしまった。
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