被害届
食卓で私と向かい合っているお兄ちゃんの健太郎は、ヤケに機嫌がいい。
やたらと嬉しそうな様子で目玉焼きやウインナーを頬張っている。
普段のお兄ちゃんは、内気だ。17歳にして彼氏いない歴17年であることを恥とさえ思うほどネガティブな性格である。
「じゃあ沙奈、モールに行ってくるね」
お兄ちゃんはお出かけが待ちきれない様子で家を飛び出していった。前日までのネガティブ気質を根本から否定するような陽気さだった。
何がそんなに嬉しいのか私には理解できない。
もしかして彼、何か良からぬものでも口にしてしまったのかな?
私は気になって仕方なかったので、彼の部屋を訪れてみた。
勉強机の上で、紙が広げられている。
折りたたまれた痕跡はない。
しかし、その紙が示す題目に、私は目を疑った。
「被害届」
左側の上の方に、その文字は堂々と踊っていた。
まさかお金をカツアゲされたの? だとしたらなぜあんなに上機嫌でいられるの? 私にはサッパリわからなかった。
呼吸を整えて、落ち着いて被害届に目を通すことにした。
届出人の名前は、石井健太郎。間違いなく私のお兄ちゃんだ。
続いて被害者の住居、職業、氏名、年齢などと見ていく。
そうしているうちに、被害届の右側にある「被害金品」の項目に移った。
品名の欄にだけ、縦書きでこの文字が力強く刻まれていた。
「僕の童貞」
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