無人の本屋さん

「よし、袋とじのグラビアが入った週刊誌をゲットだ」

 僕は小声でそうつぶやいた。ここは無人の書店。他のお客さんどころか、店員もいない。


 しかし無人の店舗だからといって、万引きやり放題というわけではない。店内には10個もの監視カメラど20個のセンサーがあり、別の場所で管理人がチェックしている。無断で商品を持ち出せば、けたたましいブザーが店内に鳴り響く。盗難を伝えられた管理人は、迷わず警察に通報するだろう。


 週刊誌が入った棚の上部には、ディスプレイがある。そこにスマートフォンをかざし、商品の代金を決済するしくみだ。僕はスマートフォンに電子マネーのデータを内蔵させていたため、何なく決済を完了できた。


 決済が終わった直後に、僕は学校のカバンに週刊誌を忍ばせた。普通の本屋だったら手に取るのも恥ずかしいほど、セクシーに満ちた本である。何といっても僕が今推しているグラビアアイドルの袋とじ写真がそこにあるのだから。


 買いたいものがやっと買えた安心感とともに、僕は店を出た。


 それから10秒も経たないぐらいのときに、スマートフォンが鳴る。母からの着信だ。何かと思いながら、僕は出てみる。テレビ電話のモードにしたままなので、画面には母が映る。


「もしもし」

「お母さんなんだけど、圭吾って今、無人の本屋に行った?」


 いきなり行動を言い当てられ、僕は動揺した。しかも母の音声は、電話から周囲へと思いっきり漏れている。


「しかもアンタあれでしょ? エロ本買ってたでしょ? グラビアアイドルの袋とじがついたエロ本」


 まさかのワードを連呼する母の声が、スマートフォンから周囲へ響く。近くでたまたま聞いたカップルや女性が、僕を好奇の目で見ながら別々の方向へ通り過ぎていった。秘密のミッションは失敗に終わり、僕はすでに屈辱にまみれはじめていた。


「母さん、僕があそこで何を買ったか、あんまり言わないでくれる!?」

 僕はあわてて母をいさめた。とにかく恥ずかしてたまらないこのシチュエーションを終わらせたかった。


「ていうか、母さんは何で僕があの店で本を買ったこと知ってるの?」

「だってその本屋、オーナーは私よ?」

 そうだった。無人店舗ならどんなやましい本でも買えると思っていた僕が愚かだったのだ。


 母の店で息子がグラビアの本を買ってしまったという重い事実が、そこにあった。

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