灰色の世界で出会ったきみを、俺は一生忘れない。

水月つゆ

第一話 告白



高校一年の三学期が始まって一ヶ月ほど経った頃。



「──あの!」


日直の用事を終えて渡り廊下を歩いているとき、背後から女の子の声がした。

振り向くと、俺よりもはるかに背が低くて、栗色の肩まである髪の毛に大きな瞳が印象的だ。


けれど、俺はこの子を知らない。

それなのになぜ、俺の名前を知っているのだろうか。


「…なに」


冷たい声で尋ねる。


「あっ、えっと……」


顔を真っ赤にさせて言葉を詰まらせる。


なんなんだ。自分から声をかけてきたくせに、何も言わないとかほんと意味分からない。


部活の誘いとかか?


そう思って、


「勧誘なら結構です」


女の子の隣を通り過ぎて昇降口へ向かうけれど、俺を抜き去ると、目の前で立ち塞がる。


「勧誘じゃないです!」


両手を広げてゆく手を阻む。


すでに一分無駄にしている気がして、沸々と怒りが込み上げる。

俺には一秒だって時間を無駄にはできないのに。


「……じゃあ何だよ」


冷たい声と共に女の子を見下ろせば、間髪入れずに、


「私、三上(みかみ)くんに用がありまして!」


意気込んで、拳を握りしめる。


「は、はぁ」


困惑した俺は後退りそうになった。


俺と同じ刺繍の色ってことは、多分同じ一年なんだろうけど。全然会ったこともなければ、話したこともないし。


クラスがかなり離れてるということになる。


そもそも彼女だけが俺のこと知ってて、俺が知らないってのもちょっと違和感あるけど。


「それでですね」


彼女へ意識を戻すと、目の前で握りしめていた拳を解いて、頬を赤く染めて指遊びをしているようで。


何の用なのかさっぱり分からない。


そんなに切り出しにくいことなら、わざわざ話しかけなければよかったのに。なんで俺に声なんてかけたんだろう、と痺れを切らした俺は。



「それで、用ってなに?」


少しだけ苛立ちながら尋ねると、


「そ、そうですよね! でも、ちょっといざ言うってなると、緊張しちゃいまして」


照れくさそうに笑うと、ぶつかっていた視線をわずかに逸らした。


なかなか話だそうとしない女の子に、


「俺、これから用事あって早く行かなきゃなんないところあるんだけど」


内心苛立ちながら、言葉をぶつける。


できることならこのまま無視をしてしまいたい。


「ご、ごめんなさい。でも、すぐに終わりますから」


申し訳なさそうに下がった眉尻。


すぐに終わるなら、さっさと言葉を続けてほしい、と心の中で吐き捨てる。


「あのですね」


言って、すーはーと呼吸を整えた彼女。

どんな言葉が出てくるのか、少しだけ緊張していると。


「私、三上くんのこと好きなんです! だから、私とお付き合いしてくれませんか?」


突然の告白に俺は、


「──は?」


開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだ。

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