灰色の世界で出会ったきみを、俺は一生忘れない。
水月つゆ
第一話 告白
◇
高校一年の三学期が始まって一ヶ月ほど経った頃。
「──あの!」
日直の用事を終えて渡り廊下を歩いているとき、背後から女の子の声がした。
振り向くと、俺よりもはるかに背が低くて、栗色の肩まである髪の毛に大きな瞳が印象的だ。
けれど、俺はこの子を知らない。
それなのになぜ、俺の名前を知っているのだろうか。
「…なに」
冷たい声で尋ねる。
「あっ、えっと……」
顔を真っ赤にさせて言葉を詰まらせる。
なんなんだ。自分から声をかけてきたくせに、何も言わないとかほんと意味分からない。
部活の誘いとかか?
そう思って、
「勧誘なら結構です」
女の子の隣を通り過ぎて昇降口へ向かうけれど、俺を抜き去ると、目の前で立ち塞がる。
「勧誘じゃないです!」
両手を広げてゆく手を阻む。
すでに一分無駄にしている気がして、沸々と怒りが込み上げる。
俺には一秒だって時間を無駄にはできないのに。
「……じゃあ何だよ」
冷たい声と共に女の子を見下ろせば、間髪入れずに、
「私、三上(みかみ)くんに用がありまして!」
意気込んで、拳を握りしめる。
「は、はぁ」
困惑した俺は後退りそうになった。
俺と同じ刺繍の色ってことは、多分同じ一年なんだろうけど。全然会ったこともなければ、話したこともないし。
クラスがかなり離れてるということになる。
そもそも彼女だけが俺のこと知ってて、俺が知らないってのもちょっと違和感あるけど。
「それでですね」
彼女へ意識を戻すと、目の前で握りしめていた拳を解いて、頬を赤く染めて指遊びをしているようで。
何の用なのかさっぱり分からない。
そんなに切り出しにくいことなら、わざわざ話しかけなければよかったのに。なんで俺に声なんてかけたんだろう、と痺れを切らした俺は。
「それで、用ってなに?」
少しだけ苛立ちながら尋ねると、
「そ、そうですよね! でも、ちょっといざ言うってなると、緊張しちゃいまして」
照れくさそうに笑うと、ぶつかっていた視線をわずかに逸らした。
なかなか話だそうとしない女の子に、
「俺、これから用事あって早く行かなきゃなんないところあるんだけど」
内心苛立ちながら、言葉をぶつける。
できることならこのまま無視をしてしまいたい。
「ご、ごめんなさい。でも、すぐに終わりますから」
申し訳なさそうに下がった眉尻。
すぐに終わるなら、さっさと言葉を続けてほしい、と心の中で吐き捨てる。
「あのですね」
言って、すーはーと呼吸を整えた彼女。
どんな言葉が出てくるのか、少しだけ緊張していると。
「私、三上くんのこと好きなんです! だから、私とお付き合いしてくれませんか?」
突然の告白に俺は、
「──は?」
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだ。
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