神は孤独に情を乞う。けれどその結末は

明神之人

序章 

古き譚

 この神聖皇国《ハワグ》に、かつて二〇もの神が降臨した。


 あらゆる欲と罪過を背負う人間が住む常世ルゥヴィエ

 畏怖と憧憬の象徴たる神や精霊の類が揺蕩う彼岸世ユグァラ


 その境界を越えて彼等が人世に顕現した頃、世界に点在する大陸は動乱の最中にあった。

 最大規模の領土を誇る旧トルロイナ国は数万もの騎馬隊を編成し、大陸の南北を大きく貫く白鐘連邦を超えて西部の国々を立て続けに征服した。

 また、古くより深い神仏信仰に染まっていたネル小国の宗教民族は、天上人の遺志であると嘯いて内乱をけしかけ、当時の貴族制度を根本から覆した。


 そんな無秩序の中にあって、極東の小さな島国に過ぎないハワグは、武力の面に於いても政治力の面に於いても非力であった。次々に他国の侵略を許し、数多の町村が、そしてそこに住む人々が犠牲となった。

 やがて国土の半分が戦火に見舞われ、これ以上の国の崩壊を恐れた当時の皇国君主は、最後の最後で古くより奉じて来た神に祈る選択をしたのである。


 王の言葉に応じるように顕現した神々は、ハワグに神秘なる力を授けた。加えて彼等は己の神力を集約させて一体の聖獣を召喚し、国家の安寧を願って守護獣としてハワグの地に深く縫い付けたのだ。


 神秘を賜った皇国は瞬く間に勢力を吹き返し、侵攻の最中にあった諸外国を撃退。以来数百年、神聖皇国として神の御名に守られたハワグは長きに渡る平和を獲得し、他国間の勢力争いにも参加せず、中立の立場を維持していた。



 時は神皇四〇二年。

 神々と共に生きるこの国は、独特の気風を持つ神秘の在処として周辺諸国に名を知られ、人の欲と神の寵愛に挟まれながら静かに息づいていた。

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