生きる。

プロローグ

第1話 僕というモノ

 サイレンの音が聞こえる。

 遠くのようでもあり、近くのようでもある。

 頭が重い。靄がかかかったようとでも言うのだろうか、意識がはっきりせず、状況がうまく把握できない。

 僕はしばらく悪戦苦闘しながら頭の中を整理した。

 あぁ、そうだ。

 突然、車が突っ込んできたんだ。

 僕はやっとのことで、その時の状況を思い出した。それからは芋づる式だ。

 学校に行くために家を出て駅への道を歩いていたら、突然、猛スピードで走ってきた赤い軽ワゴンが歩道に乗り上げ、僕の方へと突っ込んできたのだ。

 運転手は髪の長い女性だった。

 多分、とても綺麗な人なんだと思う。

 でも僕の中に残っているのは「人は本当に驚いたときはこんなにも醜い顔をするものなんだな」という、そんな記憶。

 僕の記憶はそこで途絶えていた。目の前が真っ赤に染まって・・・。


 不思議だ、痛みは感じない。

 全身を覆うフワフワとした感覚。

 決して気分の悪いものではない。

 ただ無性に寒い。凍える程に。

 死ぬのかな?

 僕は他人事のように考えた。

 まあいい。

 17年間、つまらない人生だった。

 特にやりたいこともない。

 特別仲の良い友達もいない。

 勉強も運動もそれほど得意じゃない。

 学校と家の往復の毎日。

 家に帰ればゲーム。

 もちろん、彼女はいない。

 未練?そんなものは何も無い。

 両親には申し訳ないが、このまま人生の幕を閉じるのも良いかもしれない。

 ただ、言い表せそうもない感情だけが、僕の奥で燻っているのを感じた。

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