第41話 シモン領の運営(9/9) 襲撃 後編
いよいよ書籍が発売となりました!
ぜひともご購入のほどよろしくお願いします。
WEB版を読んだ方も楽しんで貰えると思います。
書籍版とWEB版との違いは以下の通りです。
■WEB版■
文庫本一冊程度の分量でサクッと読めるお話にしています。
本来の物語からエピソードの半分以上を削り落としています。
■書籍版■
本来のお話がベースです。
しっかり世界に浸れてキャラに感情移入出来るようエピソードはWEB版の倍以上です。
1巻では、学園編で3万字以上を追加している他サブエピソードもたくさん追加しています。
1巻について言えば、追加エピソードの大半はアナとジーノが惹かれ合う過程に関するものです。
ジーノは、単に甘い言葉を囁くだけではありません。
アナのために知恵を尽くし力を尽くし、ときには体を張って全力で奮闘します。
ジーノから深く愛されることで、自分の殻に閉じこもり自分に自信がなかったアナが前向きな女性へと可愛く成長します。
◆◆◆◆◆
テンポを優先せざるを得ないWEB小説ではなくしっかり書ける書籍版で、一人の女性のために国を作ってしまった主人公のお話を納得できる形で書きたいです。
そのためには続刊する必要があります。
何卒ご購入をお願いします。
公式ホームページはこちらです。
https://kadokawabooks.jp/product/goburinreijou/322112000368.html
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「ふむ。
当家を狙うからには、何か特別な手でもあるのかと様子見しとったんじゃが……特に変わった手は無いようですのう。
それなら、さっさと片付けることにしますかのう」
出て来た男たちを繁々と眺めてからマシューさんはそう言うと、構えた。
深く腰を落とした構えだった。
先ほどと同じ、親指から中指までの三本の指の先端を合わせた独特の手型だった。
知っている!
あの構えを!
螳螂拳だ!
まさに、前世のゲームで見た螳螂拳の構えそのものだ!
そこから人が倒れるペースが一気に上がった。
驚異的な速度で動き回るマシューさんは、十メルトほど離れているのに眼で追い切れない。
チラチラとあちこちにマシューさんの残像が点滅する。
ほんの一、二秒で十数人の襲撃犯がどさりと地面に横になった。
「この強さにその技!! まさか『
瞠目する襲撃犯の一人が叫ぶ。
「これ以上気絶させても荷台には積みきれませんのう。
メイド長。あとは頼みましたぞ。
私は川向こうにいる監視役を始末して来ますぞ」
「ええ。任されましたよ」
引き
マシューさんは道に沿って流れる川へと向かう。
「はっ!?」
驚愕が声になって漏れてしまった。
水の色からして結構な深さの川のはずだ。
立ち入ったなら、少なくとも膝まで水に浸かるはずだ。
その川の水面を、マシューさんは歩いていた。
あれも武功だろう。
あんなことも出来るのか。
武功と言えば身体強化術が有名だが、それだけではないということだ。
「ほほほほほ。
あれは
知らない人が見たら驚きますけど、別に珍しいものじゃないんですよ。
当家使用人にも出来る人は多いですからねえ」
……知らなかった……出来る人が多いのか……あの家では……。
水面を歩く人間を見るより、そちらの方が衝撃だ。
「さてさて。
私も自分の仕事をしましょうかしらね」
そう言うとメアリさんは、手のひらを上にして右手を軽く持ち上げる。
すると、何もない手のひらから薄紅色の花びらが大量に
吹き出した花びらが地面に落ちることはなかった。
ふわふわと宙を漂いながら襲撃犯を取り囲むように旋回を始める。
「これは!! 『梅花剣陣』かっ!?」
「では!! あの女が『花の剣仙』!?」
襲撃犯たちが
桜にしては赤味の濃い花びらは、梅花と言うのだから梅の花びらなのだろう。
彼らが剣陣と言うので首を傾げてしまう。
メアリさんは手に剣を持っていない。
腰に剣を
もう一つ妙なことがある。
右目の『検査眼』で見る限り花びらは『気』で構築されたものだ。
通常『気』は肉眼では視認できない。
だがあの花びらは、左目の肉眼でも見える。
『気』と呼んで良いのか分からないほどに、あの花びらは『気』から懸け離れている。
「いかん!!
『護身剛気』だ!!
後のことは気にするな!!
内功全てを使ってこの一招式だけを
落ちている盾も使え!!
何としてでも生き延びろ!!」
剣を持つ平服の男が焦燥の声で叫ぶ。
自身の身を包む膜のように、平服の男たちが『気』を展開させるのが『検査眼』で見える。
「ほほほ。
ぞくり、とする微笑みでメアリさんが言う。
昏倒した男たちを繋いだ荷台に積んでからまた馬車を走らせる。
白目を剥いてガクガクと痙攣する男たちは、縄で拘束をしないまま荷台に積まれた。
自力では回復できないように、彼らの体内の気脈は巧みに乱されている。
動きたくても動けない状態で拘束は不要なのだ。
「あれらの尋問はお任せ下さい。
あちらの火災が一段落したらすぐにでもしますぞ」
「ええ。それが良いと思いますよ。
この人は点穴術が得意ですからねえ」
走り出した馬車の中で二人が言う。
点穴術というものを知らなかったので尋ねる。
「人の体には経絡秘孔というものがありますのじゃ。
そこに『気』を流し込むことにより色んなことが出来ましてのう。
同じ経絡秘孔でも流し込む『気』の質、量を変えることにまた違うことが出来ますのじゃ。
やり方次第では、知っていることを喋らせることも出来ましてのう。
点穴術なら当家使用人でも私が一番ですから、戦闘以外でも私は一番お役に立てますぞ」
「ほほほほほ。
ええ。執事長は得意ですねえ。
ツボを押すなんて、年寄り臭い技は」
マシューさんの言葉をメアリさんがそう補足する。
「一番お役に立てます」が気に触ったらしい。
この二人はお互いにライバル意識が強い。
「メイド長も花びらを使う技は得意じゃが、そろそろ控えてはどうかのう?
花びらなんて乙女チックなものは、歳を考えたら似合わないと思うんじゃがのう」
マシューさんはメアリさんにそう返す。
二人はバチバチと視線をぶつけ合っている。
「大分顔色がお悪いですけど、馬車を停めて少しお休みしましょうか?」
「いや。大丈夫だ」
メアリさんが心配してくれるがそう返す。
火災現場に向かっているのだ。
一刻も早く着く必要がある。
顔色が悪いのは、先ほどメアリさんの技を目撃したからだ。
メアリさんは剣を持っていないのに、襲撃犯は『梅花
理由はすぐに分かった。
あの花びらの一枚一枚が
花びらは、金属の盾を豆腐のように斬り裂いた。
無数の花びらが八方から人間を斬り刻む
前世を含め、ああいう場面を間近で見たのは初めてだった。
メアリさんは、白くなった髪を後ろで留めたふっくら体型の優しげなおばあちゃんだ。
だがその戦闘力は、外見からは想像も付かないものだった。
前世での魔法は、この時代とは比べものにならないほど高度に発達していた。
私は前世の記憶を持ち、前世の水準で魔法を使える。
戦闘では圧倒的に有利だと思っていた。
だがこの時代には、魔法を使えないのに凄まじい強さの人もいる。
前世では、西洋文化こそ先進的で東洋文化は未開の文化だと言われていた。
武功もまた否定的に評価され、私が生まれた頃にはもう見る影もなかった。
しかし実際に目にした武功は、未開の文化などではなかった。
認識を改め、警戒を強めなくてはならない。
前世ではすっかり廃れていた、武功という未知の技術を。
「あんなものをお見せしてしまい申し訳ありませんねえ。
でも、あれも奥様のご指示なんですよ」
「
メアリさんの言葉に驚いてしまう。
「そうですぞ。
奥様は今回この領地で襲撃があることを予測していらっしゃいましてのう。
それで護衛として私とメイド長を付けたんですぞ」
私が一人で火災現場に向かうと言ったとき、この二人はどうしても同行すると言って聞かなかった。
あそこまで頑なだったのは、義母上の指示があったからか。
「せっかくの襲撃ですからねえ。
これをジーノリウス様の勉強の機会にもしようって、奥様はお考えになったんですよ。
ですから血をお見せしたんです。
執事長の技はあんまり血が出ませんからね。
ジーノリウス様のお勉強のために、残りを私が引き受けたんですよ」
「……なぜ私に血を見せる必要があったのだ?」
「ほっほっほ。
ジーノリウス様は将来、当主となられますからのう。
有事の際は当家の騎士団を率いて戦うお立場ですじゃ。
戦の指揮を執られる方が血を見て卒倒されては、みんな困りますからのう」
「戦場は大変なところですからねえ。
遺体がすぐ横にある
血を見た程度で食欲を
そうだった。
ここは前世のような平和な国ではないのだ。
魔物との命懸けの戦闘なら毎日ように行われているし、ときには国同士・領地同士で戦う世界なのだ。
前世のような安全意識では駄目なのだ。
家門を率いる立場になる以上、こういう荒事にも慣れなくてはならない。
今回、敢えて無防備になって襲撃犯を
犯人たちは
そんなことはなかった。
義母上はずっと前からこの事態を予測し、
それどころか、今回の事件を私の領主教育に利用する余裕さえある。
私なりに考えて意外な方策を取ったつもりだった。
だが結局最後まで、義母上の手のひらの上だった。
命懸けの戦いをするつもりだった。
しかし振り返ってみれば、義母上の用意したチュートリアルの中で安全に遊んでいるだけだった。
もっと努力しなくてはならない。
あの家門の当主になるには、まだまだ足りない。
アナの隣に立つに相応しい男とは、こんな出来ない男ではない。
「というわけで、次のお食事はレアステーキをご用意しますね。
お飲み物は
頑張って完食して下さいね?」
……自信は全くない。
スッポンの生き血ジュースというのが特に……。
だが頑張る。
アナの隣に立つに相応しい男とは、スッポンの生き血ジュースを美味しく飲める男なのだ。
「少し違う気がしますが……前向きなのは良いことですのう」
そう言ってマシューさんは笑う。
つい思いが言葉になって漏れてしまっていた。
独り言を呟いてしまうとは、どうやらまだ相当動揺しているようだ。
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