第30話 盗賊王を討て! その7
俺とウェインの距離が縮まり、互いの刃が激しく交差する!
「ほぉ? てめぇも冒険者剣術か?」
「元冒険者なんでね」
「元……? 今は何だ?」
「レストラン経営者だ!」
「……もったいないなァ」
ウェインの表情や声からは驚きと呆れの両方が感じられた。
「うるせぇ!! お互い様だろッ!!」
俺は叫び、剣を握る手により力が籠もる。
「おまえの! くだらない! 野心で! 一体! どれほどの人々が! 苦しんでいると! 思っているんだッ!?」
「くだらない? くだらないだと!? この世界に――オレの野心より大事なものなどあってたまるかぁああああああッッ!!」
どのような人生を歩めばこのような思考になるのだろうか?
もしかしたらこの誇大妄想の力によって瘴気の中を生き延びたのかもしれない。
そしてウェインの身体を黒い
――瘴気だ。
長時間触れ続けるとどんな影響があるかわからない。
そして、ウェインのパワーが増している!
どちらにせよ、一気に決めるしかないだろう。
――EXスキル〈
短時間だけ圧倒的な戦闘力が得られるが、その後に行動不能になる使い所が難しいスキルだ。
だが、自分より強い相手を正面から倒すことができるという圧倒的長所が存在する。
剣を抜いた時にはこのスキルを使うことを決断していた。
そのためにエディスたちの消耗が少ないうちに前衛を交代したのだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
俺は雄叫びと共に全力を超えた斬撃を叩き込むッ!!
――ザシュッッ!!!!
まずは剣を握る右腕を切断する!!
――ズバシャアアアアアアアアアッ!!
そしてそこから躊躇なく首を斬り飛ばす!!
いくら魔物とはいえ、首をなくして生きている生物は稀だ。
ウェインの身体は動かなくなり、倒れ、血溜まりが広がった。
「た、倒したの……!?」
エディスが半信半疑な様子で言った。
「エディスと決闘した時と同じスキルを使った。俺はもうすぐ動けなくなる。先輩冒険者としては情けないが、後は任せたぞ。俺をエスティアまで運んで冒険者ギルドに報告しておいてくれ」
「わかったわ。安らかに眠りなさい」
「別に……死んでない……」
そして、俺の意識は闇に沈んだ。
*
目を開くと、よく知った天井があった。
どうやら、エディスとフローラはちゃんと連れ帰ってきてくれたようだ。
1階に降りると、ちゃんと店は営業されていた。
「エヴァンさん!! 目が覚めたのですね!」
俺に気が付いたララが駆け寄ってくる。
「俺がいない間も店はちゃんと営業していたのか」
「はいっ!」
ララはハッキリと答えてくれた。
ついに店を閉めることなく“厄介事”を片付けることができたのだ。
「そうか。話は後だ、仕事に戻ってくれ」
「わかりました」
ララは軽快な足取りで仕事に戻っていった。
「さてと……」
店内を見渡してみると、エディスとフローラの姿があった。
二人の元へ行ってみると、
「あら、エヴァンじゃない。丸一日ぐらいしか経っていないわよ。もっと安らかに眠っておきなさいよ」
軽口で迎えてくれた。
「とはいっても腹が減ったからな……。それはそうとちゃんと連れ帰ってきてくれたのか」
「アンタが言ったことじゃない。感謝してるならこの食事代無料でいい?」
「まぁいいぞ。それで、帰りは馬車を捕まえたのか?」
「そうね。だけど、フローラのスキルで馬を強化して2倍ぐらいのスピードが出てたわよ」
「事故らなくて良かったな……」
「アタシが御者を強化してたからね」
「お、おう……」
馬を強化するというのは時々聞くが、御者を強化するというアイデアは初めてだ。
確かにそうすれば反射力なども向上して事故らなく……なるのかなぁ……?
「ちゃんと冒険者ギルドに報告したのか?」
「もちろんしたわ。とりあえず州が調査隊を派遣して、第一次調査結果について1週間後に教えてくれるらしいわよ。それまでアタシたちもこの街にいないといけないってことよね……」
この調査結果で依頼を達成したかどうかが判断され、報奨金が得られるかどうかが決まってくるのでとても重要なのだ。
*
――1週間後。
調査結果が出たらしく、俺たちは冒険者ギルドに呼び出された。
説明担当者は当然リネットだ。
「ようこそ冒険者ギルドへ。加入希望でしょうか……。ウフフフフフフ」
「うるせぇ、誰がこんなブラックギルドに入るか! さっさと結果について教えてくれ」
「あらそうですか。まず、調首謀者であるギルバート・ウェインの遺体を確認できませんでした」
――!?
「誰かが勝手に埋葬したんじゃない?」
と、エディスが言うが――、
「料理人と彼を殺害したクロッカーという男の遺体は確認できましたが、ウェインの遺体についての情報は得られませんでした。ただ、屋敷跡にはエディスさんのお話の通り、ウェインのものと思われる血痕がありました」
「え? それじゃあ、誰かが勝手に持っていったの?」
「そうかもしれません。ウェインはカリスマ性があったそうですので、もしかしたら部下が持ち去ったのかもしれません」
「それで、依頼は成功扱いなのか? それとも失敗扱いなのか?」
「え? ちゃんとぶっ殺したじゃない?」
エディスは困惑している。
「エディスたちが冒険者ギルドの依頼を受けたのは初めてだから知らないかもしれないが、実は依頼を達成したことを証明するのは結構面倒なんだ」
「え!? じゃあ、ウェインの死体を持って帰ればよかったの? ちょっと嫌なんだけど……」
「確かにそのような問題が生じることはありますが、今回は大丈夫です。盗賊団が去ったため、依頼は達成したと判断されます」
「それならいいわ」
「それで支配者を失ったフリートウッド州はどうなってるんだ?」
「当然、それなりの混乱はあります。一応、ケンジット州が暫定的に統治を代行していますが、すぐに王都から臨時行政官を派遣されるでしょう。その後は……わかりませんね」
「まぁ、川の関税さえやめてくれれば好きにしてくれ」
「まぁ、それはすでになくなっていますが、すぐに効果が感じられると思います。もっとも、戦争の方が影響が大きいので、本当に景気対策したければそちらを何とかするのがいいかと……」
「何とかって?」
「両軍とも傭兵を募集しています。エヴァンさんなら戦況を動かすほどの大活躍ができるかもしれません。ウフフフフフフ」
「い・や・だ。俺はバイオレンスなのは嫌いなんだ」
「ションボリです……」
「とりあえず、報酬くれ」
「配分は?」
「当初の約束通り、エディスが3億5000万ダリル、フローラが3億3000万ダリル、俺が3億2000万ダリルでいいよな?」
だが――、
「いいえ」
エディスが待ったをかけた。
「何か文句があるのかよ」
「“先輩冒険者”なんてカタチだけだと思っていたけど……アンタの活躍、想像以上だったわ。アンタとアタシの金額、入れ替えておきなさい」
これは意外だ、あれほど拘っていた報酬の配分について譲るというのか……。
エディスは納得さえすれば自分が損することを許せる人間なのかもしれない。
「……遠慮なく貰っておくぞ」
「それではその金額で小切手を作成します」
報酬を貰うまでは冒険です、ってな。
もちろん、俺が大金を得たことをソフィアが見逃すわけがなく、たっぷり1億ダリルの寄付を搾り取られたのだった……。
さて、ノンビリしている時間はない。
もうすぐ大きなイベントが始まるからだ。
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