第28話 盗賊王を討て! その5

 俺たちはウェインが待ち受けるだろう屋敷の前に到着した。


「ここがウェインが住んでる屋敷ね」


「……本当に単なる貴族屋敷なのか!? 外からでも禍々しい気配を感じる」


「まぁ、入ってみればわかるっしょ」


 エディスは鼻息荒く門に近づいていくので俺たちも追う。


 門の前には当然、衛兵がいる。

 2人の男が槍を持って門の両側にそれぞれ立っている。


 衛兵たちがエディスに近づく。


「おうおう、ここが国王であるギルバート・ウェイン様のお屋敷だとわかっているのか?」


「え? 国王って本気で言ってるの?」


「おっと! それを口にしちゃあおしめぇよ!」


 門番の1人はそう言うと躊躇なく槍で突いてきた!

 だが、エディスはそれを難なく右手で摘んで止める。


「なんと!? これならどうだああああッ!!」


 もう1人も槍で突いてくるがやはり左手で摘んで止めた。

 そのまま槍先を小枝のようにポキリと折ると、ビスケットのようにパリパリと食べてしまった。


「う~ん、ちょっと粗悪な鋼ね……」


「化けもんだああああああ!!」


「ひぃ~~~~~~~っ!!」


 門番たちは槍――じゃなくて棒を投げ捨てると、脱兎のごとく走り去っていった。


「仕掛けてくるのも早ければ、逃げ出すのも早いわね……」


「まぁ、殺さずに済んで良かったじゃないか」


「ああいうヤツらはまた盗賊団にでも入るわよ」


「俺の知らないところで討伐されてくれればいい」


「アンタもなかなかエグい性格してるわね」


「そうか? 普通だと思うが……」


「まぁいいわ。先に進みましょう」


 ――ガラガラガラガラ。


 エディスは鉄の門を開いた。


「ふ~ん、良い庭じゃない。盗賊のアジトにしておくのはもったいないわ」


 エディスの言う通り、手入れの行き届いた庭を進む。


「まぁ、元々貴族屋敷だからな。引き続き庭師が手入れしているのだろう」


 などと他愛のない話をしているうちに、屋敷の扉の前に着いた。


「さぁて、突っ込むわよ!!」


「おう!」「はい」


 エディスは豪快に扉を蹴破って玄関ホールに突入する。


 高価そうな家具や美術品がずらりと並んでいたが、それでも広さに余裕を感じた。

 さすが貴族屋敷だ。


「ごきげんよう~!! ギルバート・ウェイン卿をぶち殺しに参りました~♪」


 エディスは元気よく叫ぶ。

 屋敷で働く人々が驚いて逃げ惑う。


 その中で、禍々しい気配がこちらに近づいてくるのがわかった。


「……何か危険なヤツが来るぞ」


 そして男は現れた。

 年齢は俺と同じくらい、体格は中肉中背。

 だが、その目付きは鋭く、冷酷さを感じさせる。


「オレの屋敷で何をしている?」


 そこまで低いわけではないが、威圧感のある声だ。


「アンタの屋敷? 領主一家は全員死んだと聞いているけど?」


「このオレ――ギルバート・ウェインが殺したのさ。気に入らなかったからな」


 やはりこの男がウェインか。


「へぇ~、何が気に入らなかったの?」


「貴族とか持てはやされて、エラソーにしているところだな。近いうちに偽りの王を倒し、この国のすべてを手に入れる! そしてゆくゆくは周りの国々もオレのものだ。もちろん勝手に“神の言葉”を語る教会も許さないッ! オレの言葉こそ神の言葉のなのだッ!」


 とてつもない誇大妄想を語るウェイン。

 聞いているだけで頭が痛くなる……。


「バカな夢を見るのもオシマイ。このアンバール男爵の娘、エディスと愉快な従者たちがぶち殺してあげるわ!」


 勝手に従者にするなよ。


「一応尋ねておくが、どうしてオレに刃向かう?」


「国王陛下の覚えを良くするため――っていうのもあるけど、やっぱり強いヤツと戦ってみたいからかな?」


「それならば仕方ない。オレは最強だからな」


「エディスは変なヤツだから変なことを言っているが、俺にとって重要なのはおまえが勝手に川の通行税を取っていることだ」


「川は“王の道”と呼ばれているのだろう? ならばオレものだ。オレこそが真の王だからな」


「真の王だか知らないが、不自然に物価が上がるのは困るのだが?」


「ならば、オレがこの国を掌握した暁には川の関税は撤廃しよう」


「いや、おまえを倒した方が早い」


「ククク……オレの力を知らんのは不幸なことだな」


「あ、そう……じゃあ見せてもらおうかしら?」


 エディスはそう言って剣を抜いた。

 今回の冒険で彼女が剣を抜くのは初めてである。


 一方でウェインは剣を腰に下げたまま抜いていない。


「その剣は飾りなの?」


「オレが剣を抜くにふさわしい相手か確かめてからでも遅くない」


「ずいぶん余裕かましてくれるじゃない――のッ!!」


 エディスは一気にウェインに接近し斬りかかるが、ウェインの拳に止められた!

 さらに連続で攻撃するが尽くを拳や足で止められる。


「――ッ!!」


 危険を感じたのだろう、エディスは距離を取る。

 当然の判断だろう。

 剣を持っている側が圧倒的に有利な間合いでダメージを与えられないのだから。


「驚いたな……オレの拳で砕けぬとは……! ただの鋼の剣ではないのか……それともおまえのスキルか……? それに体重も見た目よりも重いな……。そうか、これがレアスキル〈鋼鉄〉か!」


「よくわかったわね。わかったところでどうにもならないケド♪」


「まぁいい、そうでなくてはおもしろくない」


 ウェインの掌に光球が生まれた!!

 これは〈爆発〉のスキルだ……ッ!!


「まずいッ!! 防御しろッ!!」


 ウェインはニヤリと笑うと光球をこちらに投げつける。


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