第27話 盗賊王を討て! その4

 店の外に出てみるが、やはり誰もいなかった。

 そこそこ大通りのだというのに不自然すぎる。


「う~ん、やっぱり誰もいないわね~。店も閉まってるし」


「そうだな――ん?」


 ――ドスン!!


「きゃっ!?」


 エディスがらしくない声を出した。

 突然、目の前に誰かが落ちてきたのだ!


「……さっきの料理長だ!」


 フローラが近づいて調べる。


「すでに亡くなっております。死因は……毒ですね」


 ――シュッ!!


 その瞬間、とてつもなく嫌な予感し、反射的に身体が動いた!

 結果、何者かがエディスを斬りつけようとしたのを俺の腕で止めたらしい。


 あまりに突然のことに俺も十分に〈身体強化〉できず、傷を負ってしまった。


「ア……アンタ……!?」


 さすがのエディスも驚いている。


「だから気をつけろって言ったじゃないか。ところで……おまえは誰だ?」


 俺は斬りつけてきた男を睨みつける。

 パッと見た感じは細身で長身の優男だ。


「僕が誰かって? ギルバート・ウェイン様に従う者――名前はオリバー・クロッカーというのだけど、まぁどうでもいいよね? 君たちはもうすぐ死ぬのだから。そこの料理人と同じようにね!」


 つまり、この料理人を毒殺したのはコイツということか……。

 毒殺……そういえばさっきの店の料理には毒が盛られていたんだな……。


「ずいぶんと自信があるみたいだが、今の不意打ちは失敗したじゃないか?」


「失敗というほどでもないよ。今の攻撃にちゃんと反応できたのは君だけだった。そして――」


「ぐっ……!?」


 俺は――急に身体の力が抜けて膝をついてしまった。


「刃に痺れ薬を塗っておいたからね♪」


 クロッカーと名乗る男はニヤリとして言った。


「エヴァンが動けなくても関係ないわ。アンタはアタシがぶっ殺すから」


 エディスはそう言いながら前に出た。


「気をつけろ……そいつは……〈おんぎょう〉のスキルを……持っている……」


 何とか声を振り絞る。

 

 とにかく、今はクロッカーとかいうヤツを倒さなければ……。

 今の俺はまともに動けない……エディスとフローラに掛けるしかない……。


「なるほどォ……それで毒を盛るように命令できたということね……。だけど、不思議ね。アンタが直接入れた方がシンプルなんじゃないの?」


 エディスは疑問をぶつけた。


「それは街のみんなの忠誠心を試すためだよ。やっぱりね、いざという時にきっちりとウェイン様のために動ける人々であってほしいからねェ」


「料理人はちゃんと命令に従ったわ。どうして殺したの?」


「失敗したからね」


 クロッカーはしれっと言うのだった。

 なるほど、この街の様子がおかしい理由がちょっとわかった気がする。


「まぁ、アタシに毒を盛った罪は重いわよ? ――そりゃッ! 先手必勝ォ!!」


「……ふっ」


 エディスは素早く掴みかかるが、クロッカーはギリギリで躱したッ!!

 そのままクロッカーの姿が消える。


「しまったッ!」


 エディスは悔しそうに言った。


 相手がスキルを使う前に捕まえてしまえば、後は力押しで何とかなると考えたのだろう。

 悪くない考えだとは思うが、相手もそれくらいはわかっていたらしい。


 こうなったら次の作戦に移行するしかない。


 エディスはじっと動かないでいる。

 やはりそうするしかないだろう。


 ――シュッ!!


 エディスは視界の外から飛んできたナイフを器用に避けて見せた!

 すごい反応力だ!


「そこぉッ!! 〈ソリッド爆殺エクスプロージョン〉ッッ!!」


 エディスは叫びながらあらぬ方向に手を伸ばす!

 だがきっと、その先にはヤツがいるはずだ!


 ――ズシャッッッッ!!!!


「ぐはっ……!?」


 ようやく認識できたクロッカーの姿は見るも無惨だった。

 身体中から金属の棘らしきものが飛び出していたのである。


「ハァハァ……アンタの〈おんぎょう〉は完璧じゃない。攻撃する瞬間にわずかに効果が弱くなるのよ。精神を集中していれば対応できるわ」


 クロッカーに向かって言ったのだろうが、相手はすでに死んでいる。


「フローラ、かわいそうだからエヴァンを助けてあげていいわよ」


「かしこまりました」


 おお、そうだ!

 あまりの緊張感で忘れていたが、毒で動けなくなっていたんだ!


「それでは失礼いたします」


 フローラはそう言って、俺の身体のナイフで斬られた箇所を舐めたのだった。

 そして、クロッカーの死体を漁って様々な液体を口にしたのである。


「だいたいわかりました」


 そう言うと、またしても俺に口移しで“解毒剤”を飲ましてくれたのだった。

 効果はすぐに現れ、俺の身体は自由に動くようになった。


「助かった、ありがとう。それにしてもよく勝てたな」


「これはアンタのおかげね」


「〈おんぎょう〉について教えたことか?」


「それもあるけど……アンタ、奇襲に反応できてたじゃない? それで、あのスキルは対処できるんじゃないかって思ったのよ」


「な、なるほど……」


 確かに理屈は通っているが、あそこまで躊躇なく実行できる精神力に驚きだ。


「まぁ、アタシは“来る”とわかっていたから何とかなったけど、アンタはどうして反応できたのよ?」


「ああ、俺には〈敵意察知〉のスキルがあるんだよ。しかもかなり強力だ」


 ちなみに“毒を盛る”ような間接的な攻撃には効果が弱い。


「なるほど。それにしてもアタシが庇われちゃうなんてね」


「気にするな。先輩冒険者として当然のことだ」


「まぁ、次はないんだけどね♡」


「俺もだ」


「「あはははははは♪」」


「さてと……せっかく誰もいないし、この趣味の悪い銅像を破壊しとくわよ!」


「おう、やってしまえ!」


 まぁ、銅像の見た目自体は普通なのだが、悪党を模しているというだけでそう感じるものなのだ。


「てやあああああああッッ!!」


 ――ズバシュッッ!!


 エディスの手刀によって銅像は真っ二つになったのだった。


「いや~スッキリしたわ♪」


「本人を倒せばもっとスッキリするぞ」


「確かにそうね。さぁ、ウェインをぶっ殺しに行くわよ!」

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