第17話 超絶剣技
――そして、決闘当日になった。
場所はやはり闘技場であるが、さすが王都だけあってエスティアのものよりも立派ではある。
「エヴァン様~、応援に参りました~」
どういうことだ!? 観客席にレイチェルがいるぞ……!?
まぁ、店は休みだから来れなくはないが……。
「今回の決闘はエヴァン・ガウリーとエディス・アンバールの間で行われます。賭けたものは現金1000万ダリル。両者、Sランク冒険者アレクシス・ハーディとの決闘に勝利しており、今回の戦いは超Sランク同士の戦いであり、国王陛下もご観戦されるとのことです」
特等席には国王、ケンジット伯爵、そして付添人であるララとフローラの姿もあった。
「それでは両者、定位置へ!」
俺とエディスは10メートルぐらい離れて向かい合う。エディスの顔を見ると異様にニコニコしていた。正直、エディスの能力については全くわかっていない。本人の話が本当であれば、アレクシスよりは強いことになる。
それぞれ剣を抜いて構える。念のためにクリスタリウムの
俺はスキルを使って身体能力を10倍まで引き上げる。さらに剣の強度を2倍にする。
「始めッ!!」
開始の合図の直後から俺とエディスは激しく刃をぶつけ合う。
――上手いッ!?
明らかに俺よりパワーやスピードでは劣っているのに全く押し負けない。すごい技術だ。
「ふ~ん、元冒険者にしてはマシな剣術ね」
――これが対人剣術というものなのか?
冒険者が戦う対象は多種多様であるため、対人剣術というものを真面目に習得したりしない。だが、エディスは戦う相手は基本的に人間である。だからエディスは対人剣術の練度を上げているのだ。自称
さらに気になることがある。
「鋼鉄の剣がなぜ折れない!?」
いつぞやのアレクシスと同じようなこと自分が言っている。
「さぁ? どうしてかしらね~♪ それ、がんばれ♡ がんばれ♡」
エディスは煽りながら激しく斬りかかってくる。
「ぐっ……」
身体強化の倍率をこれ以上上げるには〈物体強化〉を解除しなければならない。だが、そうすればおそらく俺の剣は折れてしまうだろう。
かといって、俺は遠距離攻撃は特定ではない。こうなったら“限界を超える”しかない!
――
「うぉりゃあああああああああああッ!」
「……ッ!?」
――ズバアアアアアアアアアアッッ!
圧倒的なパワーとスピードを持った俺の一撃はエディスの左腕を切断することに成功!
――勝った!
「そこまで勝負ありッ! 勝者! エヴァン・ガウリー!!」
司会者が宣言する。
「早く回復術師をッ!!」
と、司会者が当然の指示を出すが――、
「いらないわ」
エディスは意外過ぎる発言をしながら落ちている自分の左腕を拾う。
一同は固唾を飲んでエディスの挙動に注目している。
――切断面付近が赤熱している!?
そして切断面同士を合わせるとジュ~という何かが焼ける音がした。
「こんなものかしら」
エディスがそう言うと左手を閉じたり開いたりした。
――つまりは完全に繋がったのである。
「バカなっ!?」
驚いたのは俺だけはない。会場全体が異常なざわめきに包まれる。
――当然だ。
優秀な回復術師でも切断された腕を繋ぐには5分以上はかかる。だが、エディスは1分もかからなかった。しかも、一般的な〈回復〉のスキルとは明らかに異なる。
「やっとわかった。君の骨はカルシウムではなく鋼鉄でできている。〈鋼鉄〉のスキル――実在したのか」
世の中にはレアスキルと呼ばれる非常に保持者が少ないスキルが存在する。〈鋼鉄〉もその1つだ。どうやらこのスキルは対象となる物質が鉄に限られる分、異常に強力らしい。だから鋼鉄の剣でもクリスタリウムと同等以上の強度を持つことができたのだ。
「よくわかったわね。まぁ、Sランク冒険者なのだからそろそろ気付いてくれて当然かしら」
エディスは負けたというのにほとんど消耗を感じさせない。
「危なかった――勝利宣言がされていなければ……俺は……負けて……いた……」
そして俺の意識は途絶えた。
*
――目覚めると見慣れない豪華な天井が視界に入る。ここは王宮だ。
「よかった! エヴァンさんが目を覚ましました」
右を向くとララがいた。
「エヴァン様……」
左を向くとなぜかレイチェルがいた。
「どうやってここへ……!?」
ここは自由に出入りできる場所ではない。
「ワタクシ、伯爵令嬢ですので、身元保証してくれる方が結構いらっしゃるのです」
「へぇ~、すごいな。ところで、賞金はどうした?」
「ちゃんともらってありますよ」
ララが袋からコインを1枚取り出した。普段は見かけない大きな金貨で1枚で100万ダリルの価値がある。これが10枚で1000万ダリル。
別に小切手でも銀行振込でもいいはずなのだが、こういうイベントではコインで支払うのが慣習となっている。逆に100万ダリル金貨なんかこういうイベントでしか見かけない。
*
――次の日の朝。
俺はフラリと中庭に出ると、木材がぶつかり合うような音が聞こえてきた。エディスとフローラが木刀で剣術の稽古をしている。あれほどの強さを誇るエディスの訓練相手ができるということは、フローラもかなり強いのではないだろうか?
――俺が来たことに気が付いてエディスたちは動きを止めた。
「もう大丈夫なの?」
「ああ」
「驚いたわ。急に倒れるんだもの」
「スキルの反動でな」
「確かにアタシもそういうスキルがあるからわかるわ」
反動の強いスキルというのはそれだけ強力であることが多い。つまり、エディスはまだ本気を出していなかった可能性がある。
「エディスこそ大丈夫なのか?」
「ああ、左手のこと?」
「そうだけど」
「この通りまったく問題ないわ。服の方はそうもいかないけどね」
そう言いながら左手を動かしてみせた。
「それはよかった」
「今回の決闘、かなり楽しめたわ。またやりましょう」
「前にも言ったと思うが、そういうバイオレンスな世界からは距離を置きたいんだな」
「人間はスキルからは逃れられないのよ」
「俺としては、そんなにバイオレンスなのが好きなら君には冒険者をやって欲しいところだ」
「野宿とかやりたくないわ。ラシェリアはよくそんなことをやっていたわね」
「な、なるほど……」
そういうところは“お嬢様”なんだな……。
「俺たちはエスティアに帰るが、君たちはどうするんだ?」
「せっかく王都に来たんだし、次の決闘相手を探すわ。陛下は好きなだけ滞在して構わないとおっしゃってくださったし」
「そうか……」
……………………。
…………。
王様を発って2日後、俺たちはエスティアに戻ってきた。
「う~む、1週間以上も店を休んでしまったなぁ……」
「でも、補償と賭け金でかなりの黒字ですよね?」
ララの言う通りだ。
「確かに今回は、な……。そもそも俺が店を離れないといけない状況が多すぎる」
「エヴァンさんは頼りにされていますからね」
「今後もそういう事態の発生に備えて――料理人を雇う」
「なんかそういうアテがあるんですか?」
「ない、けど、ある」
「????」
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