第16話 王都見物

 せっかくだからと、俺たちは王宮の中を探検してみる。


 無駄に豪華な装飾や石像があり、感心する一方で呆れもする。


「ほえ~、どうしてこんなに豪華なんでしょうか?」


 ララも似たような感想を持ったのだろう。


「おそらく、貴族たちに権威を示さないといけないのだろうな」


「王様も大変ですね~」


「そうだなぁ~」


 王宮は広いが、1日もあれば目ぼしいところは全て回ってしまった。そうなると、次に興味が湧くのは街中についてである。久しぶりに見てみたいなぁ……。


 そんなことを考えて普通に門から出ようとしたのだが――、


「あー、お客様、勝手に出られては困りますよ!」


 と、門番たちに止められてしまった。


「いや、ちょっと街を見に行くだけなのだが……」


「お客様に何かあった場合、通した我々の責任が問われるのです」


「そうなのか……」


 俺たちは引き返すと、世話係のメイドに相談してみた。すると、王立騎士団から警護役が付くことになった。護衛とは言っているが、実際は見張りだろう。


「あなたたちの護衛の任に就くことになった王立騎士団のモニカ・スチュアートだ。よろしく頼む」


 白いマントの女は名乗った。中々生真面目な人物という印象だ。


「よろしく。それじゃ、行こうか」


 メイドに昼食がいらないことを告げる。


 再び門から出ようとしたが、今度は止められなかった。


「さ~て、どうしようかな。とりあえず深く考えずブラブラと歩いてみるか」


 ……………………。


 …………。


 街中を歩いてみたところ、海産物が充実していることが再確認できた。

 王都は海に近いのでそうなるのだ。


 さて、そろそろ昼食とするか。


「モニカ、どこかオススメの食事処はない?」


 と、俺が訪ねたところ、モニカはものすご~く嫌そうな顔を見せた。


「いや、私が好んでいてもあなたの口に合うはわからないからな」


「確かにそうだな。では、モニカが好んでいる店を教えてくれ」


「そう言われては仕方ない……」


 こうして、モニカは『グメリン亭』という名前の店に案内してくれた。海産物料理が美味しいらしい。


「それで、君はどの料理が好きなんだ?」


 席について、メニューを見ながら訊ねる。


「私はこの店のカキフライセットが好きだ。カキフライ自体は他の店でも出さされているが、この店はソースが特殊なんだ」


「ほぉ、楽しみだな」


 俺たちは全員カキフライセットを注文した。


 持ってこられた料理を見ると、奇妙なソースが掛かっている。色はやや黄色っぽい白。クリームのごとくドロリとしている。


 まず、ソースだけを舐めてみる。美味い。おそらくは卵を材料にしているだろうが、詳しい作り方はわからない。


 そして、カキフライと一緒に食べみるととてもよく合う。


「おお、美味いな!」


「これ、美味しいですね!」


 ララも満足しているらしい。


「この白いソースは何だ?」


「わからないが、これが好きでよく来るんだ。そういえばエヴァン殿は料理人だったな?」


「ああ、そうだ」


「やはり、こういうことは気になるのものだろうか?」


「そうだな」


「料理人というのは楽しい仕事なのか?」


「ああ、楽しいぞ。質の高い食事は人の心を豊かにする。モニカの表情はずっと硬かったが、好きな料理を前にしてから和らいでいるな」


「なっ!?」


 モニカが顔を赤らめた。


「恥じることはない。美味い食事に対して人間は無力だ」


「ははっ。なるほど、あなたが王立騎士団の誘いを断るわけだ」


「知っているのか?」


「エヴァン殿が辞退してくれたおかげで私が入れたのだからな」


「そうなのか……!」


「私は喜んだが同時にちょっと悔しかった」


「なぜだ?」


「私があれほど望んだ入団を断る者がいたからだ。それがいかなる者なのか気にはなったが、訓練が忙しくて次第に忘れていったのだ」


「あ、うん……。こんな者だよ」


「実際に会って、話して、わかった。あなたは戦うのに向いていない。能力だけ見れば高い戦闘力を持っているように思えるが、それは本質ではないのだろう」


「理解が早くて助かるね。リネット――いや、冒険者ギルドは引退した俺に依頼を持ち込むし、今回に至ってはただ強いやつと戦いたいという戦闘狂に絡まれる始末だ」


「良くも悪くもスキルはその人の運命を規定する。スキルからは逃れられないのかもしれない」


「まるで教会の説法だな」


 それから、3人でカキフライを堪能し、店を出ようという時――、


「代金は俺が出そう」


 と、財布に手を伸ばしたのだが、モニカが俺の腕を掴む。


「いや、私が出そう」


「そうはいかない。少なくとも俺たちが食べた分は俺が払わなければ」


「あわわわ、私が食べた分は私が払いますよ」


「あなたたちは王宮で出てくる食事に代金を払っているのか?」


「そういえば……」


「払ってませんね……」


 もっとも、偉い人たちの都合で半強制的に連れてこられたのに請求されても困るのだが……。


「今のあなたたちはあくまで客。まぁ、任せておけ。私の財布が痛むわけではない」


 そう言ってモニカは懐から紙切れを出すと、金額と自分の名前を書いた。


「小切手か。さすが王立騎士団」


 ある程度信用の高い人物でないと使えない決済手段だ。王立騎士団の小切手は名前の通り国王と同じ信用がある。


「その王立騎士団の誘いをあなたは蹴ったのだがな」


 モニカは意地の悪い笑みで言った。


「おかげでモニカに出会えた」


「なっ!?」


 モニカはまたしても顔を赤らめる。一見堅物に思えても実は表情豊かなのだな。


「あ、またそーやって、エヴァンさんは取り巻きの女の子を増やす気ですか!?」


「取り巻き? なんのことだ?」


「わからなければいいんです!」


 そしてモニカの方を向くと、


「モニカさんは騎士団を辞めたりしないですよね?」


「……? ああ、もちろんだ」


「それならいいんです」


 よくわからない――。


 ……………………。


 …………。


 その後も街中をいろいろ見て回り、夕食に間に合うように王宮に戻った。


「それでは私はここで」


「ああ、今日はありがとう」


 最初はしぶしぶ来た王都だったが、いろいろ刺激になることも多いし来て良かったかもな。決闘の結果がどうなるかはわからないが……。

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