32話 【ユリウスside】悲壮なパーティ

 ユリウスは、ロイの復帰勧誘に失敗した。失意のまま、元いた街に戻る。ルフレたちが待機している街だ。ジョネス商会の隊商が、数日後にこの街から出発する予定である。


「……お前たち。すまない。ロイの復帰勧誘には失敗した……」


 ユリウスが覇気のない声で、そう言う。以前の自信に満ちあふれた彼からは想像もできないような声だ。彼が言葉を続ける。


「ロイは、ルフレが言っていたように”白き雷光”というパーティに加入したようだ」

「その通りですね。あれから自分も調べましたが、”白き雷光”は将来有望なCランクパーティです」

「ああ。新たなパーティメンバーと良好な関係を築いているようだった。もうこの”黒き炎”には戻ってこないも考えるざるを得ない」


 ユリウスが沈痛な顔でそう言う。


「ぬう……。なんとか、吾輩たちだけやるしかないのである」

「その通りですね。一度受注した任務の放棄は、信用の低下に繋がってしまいますし……」

「ええ。今回さえ乗り切れば、次からは少しランクを落とした依頼を受けることもできますわ」

「そうですね。なんとか、次の街まで護衛任務を全うできれば……!」


 ガレン、ルフレ、リサ、シオンがそう言う。


「あ、ああ……。強い魔物が出ないことを祈ろう……」


 本当は、正直に今の彼らの実力を依頼主や冒険者ギルドに報告するべきだろう。無理をして強力な魔物が出てしまうと、隊商や彼ら自身に被害が出る可能性があるからだ。


 しかし正直に報告すると、ランクの降格は免れない。ただでさえ、今の彼らは悪評が広がりつつあるのだから。


 冒険者ランクの高低は、収入に直結する。この状況下であれば、”強力な魔物が出ない”ということに一縷の望みをかけて任務を続行するパーティは、彼ら以外にもたくさんいることだろう。


「大丈夫である。きっと、なんとかなるのである。吾輩ももちろん全力を出すのである」

「その通りですね。自分も全力を尽くします」

「わたくしも。いつも以上に集中して攻撃魔法を詠唱するようにしますわ。なんとか、以前の詠唱速度と威力に近づけてみせます」

「ボクも、弓で精一杯攻撃します。援護は任せてください」


 ガレン、ルフレ、リサ、シオン。そして、ユリウス。5人の心は、1つになりつつあった。


「ああ、そうだな。きっとだいじょうぶだ。俺たちならな」


 彼らの判断自体は、褒められたことではないにせよ、異常というほどでもない。結果的には、それでうまくいく可能性もあった。だが今回は、悪い結果が出てしまうことになる。

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