ホームルーム(2)

 野々村君は2次元が大好きないわゆるオタクだ。俺と同じCグループの男子。オタクってだけでキモがられるのに、そもそもCグループは陰気なイメージが強い。


 基本、俺たちは何か意見を言おうものなら笑われネタにされるか後ろ指をさされるポジションなのだ。


 Aグループの奴らはそれを面白がってネタにしたり、ごくごくたまに話したりすることはあるものの、基本はいじり役にしてクラスの中心にいる人気者グループなのだ。


 その他にいわゆるBグループと言われる、Aグループにくっついたり、CグループをバカにすることでAグループぶったりする一番中途半端なグループもある。もちろん、独自のコミュニティを形成している奴らもいるが、クラスではBグループが圧倒的に多いな。


 スクールカーストはおおまかにこのA~Cの3段階でできているんじゃないかと考える。かといって、じゃあCグループはCグループで仲良しかというとそうでもない。


 野々村君はオタク友達が他のクラスにいて、休み時間はそいつらと盛り上げっている。そして俺はというと、困ったことに野々村君より友だちが少ない。基本ぼっち気味だし……。


 もちろん友達がいないわけじゃないよ? ちゃんといるよ? 一応念を押すけど“気味”であってぼっちじゃないよ? 付け加えて悲しいのは、俺は別に頭が良いわけでもないので、高校のレベルがそこまで高くないぶん、キャラクターがピンからキリまでなわけで、それも相まってCグループに収まっているわけだ。


 とにかく俺はCグループにいながらCグループ扱いされるのが嫌なのだ。


「はいはい、みんな静かにして。他のクラスは授業中なんだから。それに野々村君のアニメ鑑賞会だっていいじゃない。文化祭の中でリラクゼーションスペースなんていうのも必要だと思うし、そういう意味ではアニメを観ながらゆっくり休めるスペースって考えるのもありなんじゃないかしら?」


 おお! さすが鍵山さん! 上手くまとめるなあ。


「確かに!」

「それもあるな」

「楽そうでいいね」

「でもそれってアニメじゃなくても良くね?」

「じゃあ、好きな作品持ち寄って映画鑑賞なんてのも良くね?」

「えっ!? 雑技団のが良くね!?」

「田中うるさい」

「田中黙れ」

「田中ウザい」

「みんなヒドくね!?」


などとまたざわつき始めるが、鍵山さんが制して話を進める。


「それじゃあ、浦野さんの言うとおり、せっかくだからひとり一つ案を出してもらおうかしら? 恥ずかしいとか言いにくいとかあるんだったら匿名投票制なんていうのはどうかしら? それだったら心置きなく自分の意見を出せるでしょ?」


 なんだよ鍵山さん、みんなが言い出しにくいとか分かってたのかよ。しかし、匿名と言ってもなかなか即興では案なんて出せないぞ?


「鍵山さん、投票は黒板にすでに出ている案でもいいの?」とBグループの安田くんが質問する。こういう時ははっきり言うのな。


「いいわよ。案出しと言っても多数決も兼ねればそれはそれで手っ取り早いし」意外と豪快な委員長である。


「じゃあ俺射的!」

「あっ! ずる~い! じゃあ私メイド喫茶!」

「俺はアニメ鑑賞かな」

「おいおい、結局アニメ鑑賞に一票いれるのかよ! お前さっきまで野々村のことイジってたじゃん」

「だって、出し物って言っても面倒いだけだし、少しでも楽してえじゃん?」

「じゃあ、俺はあえてゲーム大会とか?」

「あっ、それ面白そうね。格ゲー? 音ゲー?」

「ダンレボに決まってんじゃん!」

「ダンレボかあ、なら私はダンスラがいいなあ」

「どうやって筐体持って来んだよ」


 今度はBグループがドッと湧く。


「ワハハハ」

「でも、出来たら最高だよな!」

「じゃあ、手作りのプリクラとか出来ないかな!? 例えば背景はカーテンとかで、写真はチェキとか」

「それ良い~!!」


 女子がキャッキャと騒がしい。


「あっ、それいーじゃん! あーし、そのプリクラに一票」浦野さんが乗っかる。

 女子はなんであんな写真撮るだけの機械が好きなんだろう? やっぱり思い出を残せるから? 勿体無い。プリクラに使う金があったら、そのぶん金貯めてカメラでも買ってそれこそみんなで撮ったらいいじゃん。


「それは女子だけが楽しいだろ~、男子も楽しめるやつにしろよな~」

「そうだそうだ~!」


 Bグループの男子が反論する。


「ビーマニやりたい!」

「カラオケやりたい!」

「ダーツは?」

「トランプとかカジノとかもいいなあ」

「麻雀やろうぜ~」

「占いの館とかも良くない?」

「みんなで盛り上がれるやつがいいよね~」


 などとやいのやいの無秩序に意見が出てくるので俺はここぞとばかりに知らん振りを決めこんでホームルームに参加しない。


 わいわいやっている辺りをひと通り見回して視線を前に向けた際、思いがけないものを見つける。二次元勇者・野々村君の後頭部が視界に入った。


 俺らはいま高校二年生だ。16歳、17歳だ。別に野々村君だってオタクとはいえ見た目はいわゆるどこにでもいるウダツノアガラナイ普通の高校生だ。お世辞にも整った顔をしているとは言えないので、“うだつのあがらないデブ”に留めておく。それでもかなり酷いと思うけど、いま目の前に飛び込んでくるものに比べればそんなことはマシュマロで優しく殴られるぐらいの衝撃だ。


――野々村君は頭頂部が見事に禿げていたのであった。

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